The Beginning Story: Episode 12

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Part A

口住宅街廃墟 前話より続き。決意の眼差しでワルプルギスの夜を見据えるまどかと、その隣に控えるキユウベえ。さらにその傍らには、瓦礫に足を挟まれ動けないほむら。 まどか「ほむらちゃん...ごめんね。わたし、魔法少女になる」 ほむら「まどか、そんな...」 狼狽えるほむらとは裏腹に、まどかの表情には一切の迷いがない。 まどか「わたし、やっと分かったの。叶えたい願い事を見つけたの。だからそのために、この命を使うね」 ほむら「やめて!」 思わず涙を散らして叫ぶほむら。 ほむら「それじゃあ、私は...私は何のために...」 まどか「本当に、ごめんね」 悲嘆するほむらを、まどかは穏やかに諭す。 まどか「これまでずっと、ずっとずっとほむらちゃんに守られて、望まれてきたから、いまのわたしが在るんだと思う。そんなわたしが、やっと見つけ出した答えなの。 信じて。絶対に、今日までのほむらちゃんを無駄にしたりしないから」 覚悟を決めたまどかの前に、満を持して進み出るインキュベーター。 キユウベえ「数多の世界の運命を束ね、因果の特異点となった君ならば、どんな途方もない望みであろうと叶えられるだろう」 まどか「...本当だね?」 キユウベえ「さあ、鹿目まどか。その魂を対価にして、おは何を希う?」 まどか「わたし...」 やや間をおいて深呼吸してから、まどかは高らかに宣言する。 まどか「すべての魔女を、産まれる前に消し去りたい。すべての宇宙、過去と未来のすべての魔女を、この手で」 まどかの胸元に光が集まる。契約によるソウルジエム誕生の輝き。 キユウベえ「その祈りはーー」 だがその光を前にして、むしろ狼狽えるキユウベえ。 キユウベえ「そんな祈りが叶うとすれば、それは時間干渉なんてレベルじゃない。因果律そのものに対する叛逆だ!君は...神にでもなるつもりなのか?」 まどか「神様でも、何でもいい」 胸元の光にそっと手を添えながら、まどかは目を閉じて一途に願い続ける。 まどか「今日まで魔女と戦ってきたみんなをーー希望を信じた魔法少女を、わたしは泣かせたくない。最後まで笑顔でいてほしい。それを邪魔するルールなんて、壊してやる。変えてやる!これがわたしの祈り...わたしの願い...」 そして目を見開き、まどかはキユウベえに一喝する。 まどか「さあ、叶えてよ。インキュベーター!」 光は拡がり、視界を真っ白に覆い尽くす。

口マミの部屋(幻覚) ローテーブルに向かってちょこんと正座しているまどか。 目の前にはマミ手製のシフォンケーキ。 マミが穏やかな笑みを浮かべつつ、紅茶を配膳してくれる。 マミ「鹿目さん、それがどんなに恐ろしい願いか分かっているの?」 まどか「...たぶん」 マミ「未来と、過去と、すべての時間で、あなたは永遠に戦い続けることになるのよ」 あくまで穏やかに諭すように、マミは先を続ける。 マミ「そうなればきっと、あなたはあなたという個体を保てなくなる。死ぬなんて生易しいものじゃない。未来永劫に終わりなく、魔女を滅ぽす概念として、この宇宙に固定されてしまうわ」 まどか「いいんです。そのつもりです」 怯むことなく返答するまどか。 まどか「希望を懐くのが間違いだなんて言われたら、わたし、そんなのは違うって...何度でも、そう言い返せます。きっといつまでも言い張れます」 杏子「いいんじゃねえの? やれるもんなら、やってみなよ」 いつの間にか隣には、ふるまわれた紅茶とケーキをがっつがっつと豪快に食べている杏子がいる。 杏子「戦う理由、見つけたんだろ?逃げないって自分で決めたんだろ?なら仕方ないじゃん。あとはもう、とことん突っ走るしかねーんだからさ」 まどか「うん...ありがと、杏子ちゃん」 マミ「...じゃあ、預かっていたもの、返さないとね」 マミはまどかに、かつてまどかが綴った変身構想ノートを差し出す。 まどか「あはは...」 やや照れくさそうに、それを受け取るまどか。 マミ「あなたは、希望を叶えるんじゃない。ーーあなた自身が、希望になるのよ。私たち全ての希望に」 マミの言葉とともに、部屋の光景はフェードアウトに呑み込まれていく。

口住宅街廃墟 猛烈な輝きを放ち続けるまどか。その姿は魔法少女スタイルへと変わっている。 ほむら「...ッ!」 あまりの眩さに目を庇うほむらとキユウべえ。 ワルプルギス「グアアアア...ツ!?」 ワルプルギスの夜もまた背後の輝きに気付き、振り同いて戦きの唸リ声を上げる。 変身したまどかは天空に向けて弓をつがえ、射る。膨大な魔力と共に放たれた矢は無限に分裂し、天空のあらゆる方角へと飛び去っていく。

口どこかの街、どこかの裏路地 傷つき、力尽きようとしている一人の魔法少女。 悔し涙に暮れながら、黒く染まった自分のソウルジエムを握リしめる。 グリーフシードへと変貌したそこから、魔女が孵化する兆しを、絶望の眼差しで見守る少女。 だがそこに、空の彼方から飛来したまどかの矢が、少女を光で包み込む。 光の中で、優しく微笑みながら少女の手を包み込むまどか。 孵化しかかっていたグリーフシードが、光に浄化され消えていく。 それを見届けて、安堵に顔を和ませ、力尽きる魔法少女。

口あらゆる時間、あらゆる平行世界 光の矢になって、異なる時空へと次々と飛来し、片っ端からグリーフシードの孵化を阻止していくまどか。 まどか「あなたたちの祈りを、絶望で終わらせたりしない!」 その光景は、全宇宙のすべてのソウルジエムに映写される。あらゆる時代の魔法少女がそれを見届け、まどかの呼びかける声を聴く。 まどか「あなたたちは誰も呪わない。祟らない。因果はすべてわたしが受け止める!だからお願い。最後まで自分を信じて!」 十一話で描かれた過去の魔法少女たちが、みな救済の在処を知る。クレオパトラも、卑弥呼も、ジヤンヌ・ダルクも、新たな希望と決意を胸に、それぞれの運命に立ち向かう勇気を得て立ち上がる。

口住宅街廃墟 もはや光の塊となったまどか。空に向けて数限りなく弓を射続け、その矢は無限に増殖して世界中へ、そして時空の彼方へと飛び去っていく。 そんなまどか目掛けて、雄叫びとともに突進しょうとするワルプルギスの夜。 だがその巨体の端々が、ふいにボロボ口と崩壊し、崩れたそこから眩い光を放ちはじめる。戸惑うように己の身体を見下ろすワルプルギス。 ワルプルギス「グ、ガ、ガアアア...ッ!?」 まどか「もういいの...もういいんだよ」 己の内部に生じた光によって、内側から食い潰されていくワルプルギス。に、優しく微笑みかけるまどか。 まどか「もう誰も恨まなくていいの。誰も呪わなくていいんだよ。...そんな姿になる前に、あなたは、わたしが受け止めてあげるから」 崩壊していくワルプルギスに、手を差し伸べるまどか。 巨大怪獣が内から放つ光はますますますます拡大しながら溢れ出て、ついには見守るほむらの視野を真っ白に埋め尽くす。 ほむら「...ツ!?」

口虚無の闇 光に目が眩んでいたほむらが、ふと気付くと、無限の闇の中を漂っている。 ほむら「ここは...」 キユウベえoff 「まどかがもたらした新しい法則に基づいて、宇宙が再編されているんだよ」 どこからともなく届くキユウベえの声。闇の中に次々と小さな光点が灯り、いつしかそこは星明かリに満たされた宇宙空間へと変わる。 キユウベえoff「ーーそうか、君もまた時間を超える魔法の遣い手だったつけね。じゃあ一緒に見届けょうか。鹿目まどかという存在の結末をーー」 遠い彼方に現れた一筋の流れ星が、徐々にほむらの方に迫ってくる。 キユウべえoff「あれが、彼女の祈りがもたらしたソウルジエムだ」 流れ星は、途方もなく巨大なソウルジエム。既に呪いの色に染まり、じわじわと黒く染まっていく。 ほむら「そんな...」 ほむらの目の前を通過していく巨大ソウルジエム、そのあまりの大きさに息を呑むほむら。 キユウベえoff「その壮大すぎる祈りを叶えた対価に、まどかが背負うことになる呪いの量が分かるかい?」 ソウルジェムが流れていく彼方には、青く輝く星、地球。 キユウベえoff「ひとつの宇宙を作り出すに等しい希望が、遂げられた。それは即ち、ひとつの宇宙を終わらせるほどの絶望をもたらすことを意味する。当然だよね」 いよいよ地球に接近したところで、巨大ソウルジエムはグリーフシードへと変わり、そこから地球より巨大な魔女を孵化させる。 ほむら「ぁ、あ...」 目を覆うほむら。だがその耳元に、まどかの声が優しく囁きかける。 まどかoff「ううん。大丈夫」 はっとして顔を上げるほむら。すると宇宙の彼方に眩い光が現れる。 まどかoff「わたしの願いは、すべての魔女を消し去ること。 本当にそれが叶ったんだとしたらーー」 巨大宇宙魔女を追って迫り来る光。無限の時空を転戦して超進化を遂げた、魔法少女まどか究極形態。 まどかoff「わたしだって、もう絶望する必要なんてない」 ハイパーアルテイメットまどか、地球を丸呑みしようとしていた宇宙魔女に向けて浄化ピーム発射。その凄まじいパワーによって、魔女は宇宙を震憾させる絶叫とともに消滅していく。 魔女を呑み込む眩い光は、そのまま拡がってほむらの視界を緩い尽くす。 ほむら「ーーツ!?」

口虚無の光 上下も方角も奥行きもない、ただ真っ白い空間。 キユウベえoff「まどか。これで君の人生はーー始まりも終わりもなくなった」 呼びかけるキユウベえの声に、目を開けるまどか。全てをやり遂げ、達観した静かな面持ち。 キユウベえoff「この世界に生きた証も、その記憶も、もう何処にも残されていない。君という存在は一つ上の領域にシフトして、ただの概念に成リ果ててしまった。もう誰も君を認識できないし、君もまた誰にも干渉できない。君は...この宇宙の一員ではなくなった」 ほむら「何よ、それ...」 一方で、虚無の中に働突の想いを放つほむら。 ほむら「これがまどかの望んだ結末だっていうの? こんな終わり方であの子は酬われるの?冗談じゃないわ!これじゃ死ぬよりももっと酷いじゃない!」 まどか「ううん、違う...これで良かったんだよ。ほむらちゃん」 嘆くほむらの思念に、まどかの思念が寄り添う。 まどか「今のわたしにはね、過去と未来のすべてが見えるの。かつであったかもしれない宇宙も、いつか有り得るかもしれない宇宙も、みんな」 ほむら「まどか...」 まどか「だからね、ぜんぶ分かったよ。幾つもの時間で、ほむらちゃんがわたしのために頑張ってくれたこと、何もかも」 ほむらはまどかと共に、自らが経験してきた円環時間の中の戦いの数々を回想する。 (十話【Aパ1トP.132】、ほむら初登校でまどかに廊下に連れ出されたシーン) (十話【AパートP.134】、魔女初退治の後、マミ、まどか、ほむらでお茶を欽むシーン) (十話【AパートP.135】、初めてのワルプルギス戦で、ほむらの制止を振り切って戦いに臨むまどかのシーン) (十話【BパートP.140】、錯乱したマミをまどかが殺し、それをほむらが慰めるシーン) まどか「...何度も泣いて、傷だらけになりながら、それでもわたしのためだけに...ずっと気付いてあげられなくて、ごめんね」 ほむら「...ツ」 ついに想いが通じたことで、喜びのあまり、涙に喉を詰まらせるほむら。 まどか「今のわたしになったから、本当のあなたを知ることができた。わたしには、こんなにも大切な友達がいてくれたんだって。...だから、嬉しいよ。後悔なんてない。ほむらちゃん、ありがとう。あなたはわたしの、最高の友達だったんだね...」 ほむら「...だからって、あなたは、このまま...帰る場所もなくなって、大好きな人たちとも離ればなれになって...こんな場所で、独りぼっちで、永遠に取り残されるっていうの?」 まどか「独りじゃないよ。みんな、みんないつまでもわたしと一緒だよ」 穏やかに微笑むまどか。 まどか「これからのわたしはね、いつだって、どこにでもいるの。だから見えなくても、聞こえなくても、わたしはほむらちゃんの側にいるよ」 ほむら「まどかは...それでいいの?」 諭されても、だがほむらは諦めきれない。 ほむら「私はあなたを忘れちゃうのに?まどかのこと、もう二度と、感じ取ることさえできなくなっちゃうのに?」 まどかでつうん、諦めるのは、まだ早いよ」 励ますように、かぶりを振るまどか。 まどか「ほむらちゃんは、こんな場所までついてきてくれたんだもの。だから元の世界に戻っても、もしかしたら、わたしのこと忘れずにいてくれるかも」 まどかは自分の髪を結わえていたリボンを解き、ほむらの手に握らせる。 まどか「大丈夫。きっと大丈夫。信じようよ」 ほむら「まどか...」 まどか「だって魔法少女はさ、夢と希望を叶えるんだから。きっとほんの少しなら、本当の奇跡があるかもしれない。...そうでしょう?」 ほむらの側を離れていくまどか。そのまま存在は希薄になり、拡散していく。 ほむら、まどかに渡されたリボンを握りしめ、泣きながらもう一方の手を差し伸べる。 ほむら「まどかッ、行かないでッ!」 まどか「ごめんね...わたし、みんなを迎えに行かないと。いつかまたもう一度、ほむらちゃんとも逢えるから。それまでは...ほんのちょっとだけ、お別れだね...」 ほむら「まどかああツ!」 消えていくまどか。現実空間へと引き戻一されていくほむら。

Part B

口音楽学校のホール バイオリンを手に、舞台の上に一人で歩み出る恭介。胸には試験番号を示すバッジ。 がらんどうの客席では、真ん中の席に4人だけ、審査員の教師が無表情に座っている。緊張に生唾を呑む恭介。 恭介「25番、上条恭介です。課題曲は...アヴェ・マリア」 恭介は一旦目を閉じ、精神を集中させてから、引き締まった表情で演奏を始める。 その様子を、審査員たちよりずっと後方の席で、並んで腰掛けて聴いているまどかとさやか。 さやか「なんか、手間かけさせちゃったね...」 まどか「ううん。こっちこそごめん。こういう結果しか用意できなくて」 舞台上の恭介も、審査員たちも、まどかとさやかの存在には気付かない。 まどか「さやかちゃんを救うには、何もかも無かったことにするしかなくて、だったらこの未来も消えてなくなっちゃうの。でもそれは、たぶん、さやかちゃんが望む形じゃないんだろうなって」 審査員の一人が、隣の一人に耳打ちで話しかけようとするが、相手の審査員はそれを手で制し、真剣な面持ちで恭介の演奏に聴き入る。 まどか「さやかちゃんが祈ったことも、そのために頑振って戦ったことも、とても大切なーー絶対に無意味じゃなかったと思うの。だから...」 さやか「うん。これでいいよ」 満足の面持ちで、恭介のアヴェ・マリアに聴き入るさやか。 さやか「そうだよ。あたしはただ、もう一度、あいつの演奏が聴きたかっただけなんだ。あのバイオリンを、もっともっと、大勢の人に聴いて欲しかった...それを思い出せただけで、充分だよ。もう何の後悔もない」 微笑みながら、さやかは舞台の袖に目を巡る。物陰に控えながら、心配そうに恭介の演奏を見守る仁美の姿が。 さやか「まあそりゃ、ちょっぴり悔しいけどさ。仁美じゃあ仕方ないや。恭介には勿体ないくらい良い子だし。幸せになってくれるよね」 まどか、頷いて、そっとさやかの肩に手を置く。 まどか「ーーじゃあ、行こうか」 さやか「つん」 そのまま席から消滅する二人の姿。 恭介は目を閉じ、忘我の境地で演奏のクライマックスを弾き終える。 演奏終了ーーと同時に沸き上がる満場の拍手喝采。 はっとして目を聞ける恭介。 場所は試験会場でなく満員のコンサートホールに変わり、恭介もまた青年の安で、燕尾服に身を包み舞台の上に立っている。 拍手に沸き上がる客席の中から、さやかの視線を確かに感じ取った青年恭介。途方に暮れて見回すものの、当然、その姿はない。 恭介(青年)「...さやか...?」

口真夜中の駅 意識を取り戻すほむら。 場面は十話【BパートP.139】の、魔女さやか撃退直後に酷似している。傍らには、戦いを終えて疲弊したマミと杏子がいる。 杏子「さやかは? おい、さやかはどうした!?」 マミ「逝ってしまったわ。円環の理に導かれて」 血相を変えて問う杏子に、悲しげに答えるマミ。 マミ「美樹さん...さつきのあの一撃に、すべての力を使ってしまったのね」 脱力し、膝をついて鳴咽する杏子。 杏子「バカヤロウ...惚れた男のためだからって、自分が消えちまってどうするんだよ! バカ...やっと友達になれたのに...」 マミ「それが魔法少女の運命よ。この力を手に入れたときから、分かっていた筈でしょう? 希望を求めた因果が、この世に呪いをもたらす前に、私たちはああやって消え去るしかないのよ...」 ほむら「...」 呆然と、手の中のリボンを見つめるほむら。今も胸に残るまどかへの想い。 ほむら「...まどか...ツ」 リボンを胸に押し付け、声を殺して泣くほむら。 杏子「...?」 マミ「...暁美さん?」 そんな彼女の呟きに、杏子とマミが怪訝そうな目を向ける。 マミ「...まどかつて、...誰?」

口河川敷のグラウンド 休日。人々が漫ろ歩いて和むグラウンドの一角。 タツヤが地面にしゃがみ込み、一心不乱に落書きをしている。 拙いながらも、魔法少女まどかの特徴を捉えた似姿。 そこを通りがかった少女が、足を止め、しゃがみ込んでタツヤの絵に見入る。 私服姿のほむらである。長い黒髪は、まどかの遺品のリボンで留めている。 書き上げた落書きを、ほむらに向けて自慢するタツャ。 タツヤ「まどかっ、まどかっ」 ほむら「つん。そうだね。そっくりだよ」 タツヤ「...あう?」 タツヤ、不思議そうな顔をして、ほむらの髪のリボンに手を伸ばす。その手が触れる寸前に、慌てて割り込んできた知久がタツヤの手を引っ張る。詢子も一緒。 知久「こおら、駄目じゃないかタツャ。女の人の髪を引っ張るの、駄目!」 タツヤ「まどかっ、まどかあ」 知久「すいませんねえ。大丈夫でしたか?」 ほむら「いいえ。こちらこそ、お邪魔しちゃって」 ほむら、タツヤに向かってにっこりと笑いかける。 ほむら「まどか、だね」 タツヤ「うんツ」 詢子「...」 そんな二人を、小首を傾げて見守る詢子。 × x x 土手に並んで腰を下ろしているほむらと詢子。二人で、グラウンドで戯れている知久とタツヤを見守っている。 詢子「まあその...あの子が一人遊びするときの、見えないお友達ってやっ? 子供の頃には、よくあることなんだけどね」 ほむら「ええ、私にも覚えがあります」 詢子「まどか、ってさ、あなたも知ってるの? アニメか何かのキヤラとか?」 ほむら「さあ、どうだつたか。聞き覚えがあるような、ないような」 詢子「そうかあ。あたしもどっかでタツヤと一緒に見たのかなあ...う~ん、たまにね、すっごく懐かしい響きだな、って思うことがあるんだよね。まどか」 ほむら「そうですか」 寂しげに笑うほむらの横顔に、しげしげと見入る詢子。 詢子「...そのリボン、すっごく可愛いねえ~。あたしの好みにド直球だわ。ちょっとびっくりしたくらい」 ほむら「あげましょうか?」 詢子「あはは、こんなオバサンには似合わないって。まあ娘とかいたら、つけさせたかもしれないねえ」 ほむら「...」 胸の内の寂寥を押し隠し、にっこりと笑い返すほむら。

口夜の市街地 摩天楼の屋上に腰掛けている魔法少女スタイルのほむら。 髪型に加えて、武装も盾から弓に変わっている。(時間静止能力はなし) ソウルジエムの浄化作業中。以前のような大型のグリーフシードではなく、小粒の石を幾つも消費して、少しずつソウルジエムの穢れを吸い取っている。 小粒グリーフシードは使い終わるたびに傍らに放り投げ、それをキユウべえが逐一、咥ぇ取って嚥下している。 キユウベえ「ーー成る枚ね。たしかに君の話は、ひとつの仮説としては成り立つね」 ほむら「仮説じゃなくて、本当だってば」 キユウべえ「だとしても、証明しょうがないよ。君が言うように、宇宙のルールが書き替えられてしまったのだとすれば、今の僕らにそれを確かめる手段なんてないわけだし...君だけがその記憶を持ち越しているのだとしても、それは君の頭の中にしかない夢物語と区別がつかない」 ほむら「...ふん」 鼻を鳴らして、作業を続行するほむら。 キユウべえ「...まあ確かに、浄化しきれなくなったソウルジェムがなぜ消滅してしまうのか、その原理は僕たちにも解明できてない。その点、君の話にあった魔女の概念は、なかなか興味深くはある」 小粒グリーフンードをもぐもぐと呑み込みながら、考え込むキユウべえ。 キユウベえ「人間の感情エネルギーを収集する方法としては、たしかに魅力的だ。そんな上手い方法があるなら、僕たちインキュベーターの戦略も、もっと違ったものになっただろうね」 ほむら「...そうね。あんたたちは、そういう奴らよね」 皮肉たっぷりに言うほむらだが、キユウべえは気にもとめない。 キユウベえ「君が言、っ魔女のいた世界では、いま僕らが戦ってるような魔獣なんて存在しなかったんだろう? 呪いを集める方法としては、よほど手っ取り早いじゃないか」 ほむら「そう簡単じゃなかったわ。あんたたちとの関係だって、かなり険悪だったし」 キユウベえ「ふ~ん...やっぱり理解できないなあ。人類の価値観は」 ソウルジエムの浄化を終え、立ち上がるほむら。ビルの屋上から眼下を見渡し、闇に目を凝らす。 ほむらM『たとえ魔女が産まれなくなった世界でも、それで人の世の呪いが消え失せるわけではない。世界の歪みは形を変えて、今も闇の底から人々を狙っている』 あちこちで、裏路地の闇に蠢く異形の影たち。魔女の使い魔とも違う、全く別種の怪物ーー魔獣たち。 キユウベえ「今夜はつくづく療気が濃いねえ。魔獣どもも次から次へと湧いてくる。いくら倒してもきりがない」 ほむら「ぼやいてたって仕方ないわ。ーーさあ、行くわよ」 ピル屋上から身を投じ、闇へと舞い降りていくほむらとキュゥべえ。 ほむらM『悲しみと憎しみばかりを繰り返す、救いようのない世界だけれどーーだとしてもここは、かつてあの子が守ろうとした場所なんだ』 魔獣たちの前に舞い降りるほむら。闘志も新たに弓を構え、狙いをつける。 ほむらM 『それを憶えてる。決して忘れたりしない。だから私はーー戦い続ける」

ロスタッフロール

Part C

何処の地かも知れぬ、不毛の戦場。 地を埋め尽ミす魔獣の群れを前にして、立ちはだかる魔法少女ほむら。 エンドロールに続いて画面を過ぎるメッセージ。 ーーDon't forget. Always, somewhere, someone fighting for you. ーーWhile you remember her, you are not alone. ほむらの耳元に囁きかける、遠い昔の親友の声。 ーー「がんばって」と。 静かな笑みとともに頷いて、魔獣たちの直中へと突進していくほむら。