The Beginning Story: Episode 4: Difference between revisions

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それを言われては返す言葉もないさやか。
それを言われては返す言葉もないさやか。
キュゥべえは溜息をついて、立ち上がる。
キュゥべえは溜息をついて、立ち上がる。
キユウベえ「君たちの気持ちは分かった。残念だけど、僕だって無理強いはできない。お別れだね。僕はまた、僕
キユウベえ「君たちの気持ちは分かった。残念だけど、僕だって無理強いはできない。お別れだね。僕はまた、僕との契約を必要としてる子を探しに行かないと」
まどか「...ごめんね、キュゥベえ」
キユウベえ「こっちこそ、巻き込んで済まなかった。短い間だったけど、ありがとう。一緒にいて楽しかったよ、まどか」
手を振って、姿を消すキユウベえ。俯いたまま、繰り返すまどか。
まどか「ごめんね...」


PP54
ロマミの住むマンション
夕方。学校帰りのまどか。マミの部屋の前に立ち、チャイムを押す。だがもちろん反応はない。
遠慮がちにドアノプに触れるまどか。鍵はかかっておらず、ドアは開いてしまう。


口マミの部屋
夕陽が差し込む無人の室内。帰る者がいなくなっても、生活臭は色濃く残っている。テーブルには飲みかけの紅茶と読みかけの本が放置されていたりする。
まどかは、自分の魔法少女変身妄想を書き綴ったノートを、そっとテーブルの上に置いて、背を向ける。
この部屋で談笑したマミの面影が蘇り、また涙を流すまとか。
まどか「...ごめんなさい...あたし、弱い子で...ごめん
なさい...」
一人、孤独に泣き続けるまどか。
口マミの住むマンション
エントランス。泣き腫らした目で出てくるまどか。
すると道端に、ほむらが待ち構えている。やや面食らうまどか。泣いた痕跡を見咎められないかと慌てる。
まどか「ぁ...ほむら、ちゃん...」
ほむら「あなたは自分を責めすぎてるわ。鹿目まどか」
まどか「...え」
ほむら「あなたを批難できる者なんて誰もいない。いたら私が許さない」
ほむらは相変わらずの無表情だが、口調はむしろ優しい。
その意外さにますます呆然となるまどか。
ほむら「忠告、聞き入れてくれたのね」
まどか「...うん」
口住宅街
帰り道。夕陽の中を並んで歩く二人。
まどか「...私が、もっと早くにほむらちゃんの言、つことを聞いてたら...」
ほむら「それで巴マミの運命が変わったわけじゃないわ」
まどか「...」
まどか「...」
ほむら「でも、あなたの運命は変えられた。一人が救われただけでも、私は嬉しい」
ほむら「でも、あなたの運命は変えられた。一人が救われただけでも、私は嬉しい」

Revision as of 10:23, 22 January 2013

Part A

口恭介の病室(過去) 見舞いに訪れるさやか。だがベッドは空。 その様子を、廊下を通りがかった看護師Aが見各める。看護師A「上条くんのお見舞い?」 さやか「ええ...」 看護師A「ああ、ごめんなさいね。診察の予定が繰り上がって、今ちょうどリハビリ室なの」 さやか「ぁ、そうでしたか。...どうも」 ややしょんぼりしながら、会釈して去るさやか。 そこへさらに通りかかる看護師B。Aと二人でさやかの背中を見送る。 看護師B「良く来てくれるわよね。あの子」 看護師A「助かるわ。難しい忠者さんだしね。...励ましになってくれてるといいんだけど」

ロリハビリ家(過去) 歩行訓練をしている恭介。だが表情は暗く、渋々やらされている様子でいる。 看護側B off「事故に遭う前は、天才少年だったんでしょ?バイオリンの」 看護師A off「歩けるようになったとしても、指の方はねえ...もう二度と楽器を弾くなんて、無理でしょうね」

口病院、エレベーター内(過去) 一階ロビーへと戻るエレベーターの中。一人きりで乗つているさやか。 さやかM 『...なんで、恭介なのよ?』 ふと自分の左手を見下ろす。自在に動く5本の指を、悔しそうに握りしめる。 さやかM 『あたしの指なんて、いくら動いたって何の役にも立たないのに...なんであたしじゃなくて、恭介なの?』 だがそこで、気持ちを静めて考え直すさやか。 さやかM 『もしもあたしの願い事で、恭介の身体が治ったとして...それを恭介は、どう思うの?』 病室での恭介の笑顔と、彼のために買い集めてきたCDの山を思い出す。 さやかM 『ありがとうって言われて、それだけ? それとも、それ以上のことを言ってほしいの?」 考えを巡らすうちに、自H己嫌怒に駆られるさやか。 さやか「...あたしって、嫌な女だ」

口病院裏の駐輪場 三話ラスト直後。 グリーフシードを手に立ち去っていくほむら。 それを悔し泣きしながら見送るさやかと、放心しているまどか。 さやかM『思えばーーそのときのあたしは、まだ何も分かっていなかった。奇跡を望む意味も、その代償も...』

口鹿目家ダイニングキッチン 一話と同じ鹿目家の朝食の風景。 タツヤの面倒を見つつ新聞を読みつつコーヒーを飲んでいる詢子と、甲斐甲斐しく配膳している知久。 だがまどかはぼんやりと目玉焼きを見つめるだけで、心ここにあらずの状態。 まどかの脳裏を過ぎるのは、昨日までマミと共に過ごした日々の記憶。 そして、マミを見舞った壮絶な最期。 詢子「ーーまどか。さっさと食べないと遅刻だぞ」 詢子の声に、はたと我に返るまどか。 まどか「う、うん...」 相変わらずぼんやりしたまま、目玉焼きに箸をつけるまどか。 だが一口食べた途端に、ぽろりと涙がこぼれる。 知久、詢子「...?」 さすがに様子がおかしいと気付く両親。 まどか、こらえきれずに、身を震わせてボロボロと泣き始める。 姉の様子にきょとんとするタツヤ。 タツヤ「ねーちゃ、どったの?」 知久「ま、不味かったかな...」 まどか「...ううん、おいしいの。すごく、おいしい...」 返事しながらも、まどかの涙は止まらない。 まどか「...生きてると...パパのごはんが、こんなに美味しい...」

口通学路 普段と変わらない平和な通学の風景。 並んで歩きながら談笑するまどか、さやか、仁美。 今日のキユウべえはまどかの肩には乗らず、すぐ後ろを ついて歩いている。 さやかはいつも通り活発に話題を振り、仁美を笑わせて いる。 さやか「でもってユウカったらさあ、それだけ言ってもまだ気付かないのよ。『え? 何? ワタシまた変なこと言った?」とか半ベソになっちゃって、こっちはもう笑い堪えるのに必死でさー」

まどか「...」 まどか、うすぼんやりした愛想笑いを浮かべたまま、話を聞き流しつつ、キユウベえ経由のテレパシーで、さやかに呼びかける。 まどか『...さやかちゃん、昨日のこと...』 さやか『...ごめん。今はやめよ。また後で』 口調ばかりは明るさを保ったまま、思念では沈欝に答えるさやか。 まどか「...」 上手く表面を取り繕えているさやかと、それができない自分との差に、ますます悲しくなるまどか。

口授業風景 英語の授業。担当は早乙女利子先生。 黒板に書かれた英文法のテキストを解説しているかに見えて、実はまったく関係ないことを喋っている。 和子「えー、確かに出産適齢期というのは医学的根拠に基づくものですが、そこからの逆算で婚期を見積もることは大きな間違いなんですねー。つまり30歳を越えた女性にも恋愛結婚のチャンスがあるのは当然のことですから、したがってここは過去完了形でなく現在進行形を使うのが正解でーー」 授業に集中できないまどか。そっと横目にさやかを見遣

る。 あえてまどかと視線を合わそうとしないさやか。切なく なるまどか。 そんなまどかの様子を、ほむらもまた見守っている。

口屋上 昼休み。フェンス際に並んで腰を下ろし、よりかかっている二人。ぼんやりと空を見上げているまどか。思い詰めた表情のさやか。 空気を読んで、ほんの少しだけ聞をおいて座っているキユウベぇ。 まどか「なんか、違う国に来ちゃったみたいだね」 さやか「...」 まどか「学校も、仁美ちゃんも、昨日までとぜんぜん変わってない筈なのに...なんだかまるで、知らない人たちの中にいるみたい」 さやか「知らないんだよ。誰も」 冷めた声で言い捨てるさやか。普段と述、っその口調に、やや怯むまどか。 さやか「魔女のこと、マミさんのこと。あたしたちは知ってて、他のみんなは何も知らない。それってもう、違う世界で、違うものを見て暮らしてるようなもんじゃない」 まどか「...さやかちゃん?」 さやか「とつくの昔に、変わっちゃってたんだ。もっと早くに気付くべきだったんだよ。あたしたちも」 まどか「...」 遠い眼差しで空を見つめるさやか。返す言葉もないまどか。 さやか「...まどかはさ、今でもまだ、魔法少女になりたいって思ってる?」 キユウベえ「...」 さやかの問いに、キユウベえもまどかに注目する。 まどか「...」 素直に『嫌だ』と言う勇気を出せないまどか。重い沈黙。察するさやか。 さやか「...そうだよね。うん、仕方ないよ」 まどか「...ずるいって、分かってるの。今さら虫が良すぎるよね...」 まどか、悔しさと情けなきで涙を溢す。 まどか「でも...無埋。...わたし、あんな死に方...今でも思い出しただけで、息ができなくなっちゃうの...恐いよ...嫌だよお...」 さやか、隣にいるまどかの頭を抱き寄せ、肩を寄せあう。 キユウべえも何も言えず、俯いている。 さやか「マミさん、本当に優しい人だったんだ。戦うためにどういう覚悟がいるのか、あたしたちに思い知らせるために、あの人は...」 マミへの追想に授るさやかとまどか。 さやか、ややあってからキユウべえを見る。 さやか「ーーねえキユウベえ。この街、どうなっちゃうのかな?マミさんの代わりに、これから誰がみんなを魔女から守ってくれるの?」 キユウベえ「永らくここはマミの縄張リだったけど、空席になれば他の魔法少女が黙ってないよ。すぐにも他の子が魔女狩りのためにやって来る」 さやか「でもそれって、グリーフシードだけが目当ての奴なんでしょ? あの転校生みたいに」 キユウベえ「...確かに、マミみたいなタイプは珍しかった。普通はちゃんと損得を考えるよ。だれだって報酬は欲しいさ」 さらに何か言おうとするさやかに対し、機先を制して言い足すキユウべえ。 キユウベえ「でもそれを批難できるとしたら、それは同じ魔法少女としての運命を背負った子だけじゃないかな」 さやか「...」 それを言われては返す言葉もないさやか。 キュゥべえは溜息をついて、立ち上がる。 キユウベえ「君たちの気持ちは分かった。残念だけど、僕だって無理強いはできない。お別れだね。僕はまた、僕との契約を必要としてる子を探しに行かないと」 まどか「...ごめんね、キュゥベえ」 キユウベえ「こっちこそ、巻き込んで済まなかった。短い間だったけど、ありがとう。一緒にいて楽しかったよ、まどか」 手を振って、姿を消すキユウベえ。俯いたまま、繰り返すまどか。 まどか「ごめんね...」

ロマミの住むマンション 夕方。学校帰りのまどか。マミの部屋の前に立ち、チャイムを押す。だがもちろん反応はない。 遠慮がちにドアノプに触れるまどか。鍵はかかっておらず、ドアは開いてしまう。

口マミの部屋 夕陽が差し込む無人の室内。帰る者がいなくなっても、生活臭は色濃く残っている。テーブルには飲みかけの紅茶と読みかけの本が放置されていたりする。 まどかは、自分の魔法少女変身妄想を書き綴ったノートを、そっとテーブルの上に置いて、背を向ける。 この部屋で談笑したマミの面影が蘇り、また涙を流すまとか。 まどか「...ごめんなさい...あたし、弱い子で...ごめん なさい...」 一人、孤独に泣き続けるまどか。

口マミの住むマンション エントランス。泣き腫らした目で出てくるまどか。 すると道端に、ほむらが待ち構えている。やや面食らうまどか。泣いた痕跡を見咎められないかと慌てる。 まどか「ぁ...ほむら、ちゃん...」 ほむら「あなたは自分を責めすぎてるわ。鹿目まどか」 まどか「...え」 ほむら「あなたを批難できる者なんて誰もいない。いたら私が許さない」 ほむらは相変わらずの無表情だが、口調はむしろ優しい。 その意外さにますます呆然となるまどか。 ほむら「忠告、聞き入れてくれたのね」 まどか「...うん」

口住宅街 帰り道。夕陽の中を並んで歩く二人。 まどか「...私が、もっと早くにほむらちゃんの言、つことを聞いてたら...」 ほむら「それで巴マミの運命が変わったわけじゃないわ」 まどか「...」 ほむら「でも、あなたの運命は変えられた。一人が救われただけでも、私は嬉しい」 ほむらの、思いもよらない感情的な言葉に、驚きつつも、ほだされるまどか。 まどか「ほむらちゃんは、さ...なんだか、マミさんとは別の意味で、ベテラン、って感じだよね」 ほむら「そうかもね。否定はしない」 やや訊きづらい問いを口にする前に、少しだけ緊張するまどか。 まどか「...昨日みたいに、誰かが死ぬとこ、何度も見てきたの?」 ほむら「そうよ」 まどか「...何人、ぐらい」 ほむら、わずかに間をおいて遠い眼差しになる。 ほむら「数えるのを諦めるほどに」 まどか「...」 素つ気ない、だが重すぎる返事に、しばし言葉を失、つまどか。 ふと、抜け殻のようだつたマミの部屋に思いを馳せる。 まどか「あの部屋、ずっと、あのままなのかな...」 ほむら「巴マミには迷い親戚しか身寄りがいないわ。失除届が出るのは、まだ当分先でしょうね」 まどか「...誰も、マミさんが死んだこと、気付かないの?」 ほむら「仕方ないわ。向こう側で死ねば、死体だって残らない。こちらの世界では、彼女は永久に行方不明者のまま。ーー魔法少女の最期なんて、そういうものよ」 俯くまどか。再び涙が溢れてくる。 まどか「...ひどいよ」 ほむら「...」 鳴咽するまどかを、無言で見守るほむら。 まどか「みんなのために、ずっと独りぼっちで、戦ってきた人なのに...誰にも気付いてもらえないなんて、そんなの...寂しすぎるよ...」 ほむら「そういう契約で、私たちはこの力を手に入れたの。誰のためでもない、自分自身の祈りのために戦い続けるのよ。誰にも気付かれなくても、忘れ去られでも、それは仕方のないことだわ」 まどか「わたしは...覚えてる」 涙を拭いて、きっぱりと言うまどか。 まどか「マミさんのこと、忘れない...絶対に」 ほむら「そう...」 虚ろに、やや自嘲的に肱くほむら。 ほむら「そう言ってもらえるだけ、巴マミは幸せよ。羨ましいほどだわ」 まどか「...ほむらちやんだって!」 ほむらの空虚な語調に、なぜか無性に切なくなり、まどかは強く断言する。 まどか「ほむらちゃんのことだって、わたしは、忘れないもん!昨日、助けてくれたこと...ぜったい忘れたりしないもん!」 立ち止まるほむら。湧き上がる悲しみを堪えきれなくなり、俯いて表情を隠す。(別の時間軸を記憶していないまどかにしてみれば、それは何の悪意もない言葉だが、ほむらにとっては胸を块られる発言である) ほむらの様子の異変に気付き、立ち止まって振り向くまどか。 まどか「...ほむらちゃん?」 ほむら「...あなたは、優しすぎる」 まどか「え?」 ほむら、敢えて硬い表情を繕って顔を上げ、まどかを見据える。 ほむら「忘れないで。...その優しさが、もっと大きな悲しみを呼び寄せることもあるのよ」 まどか「...?」 まどか、何のことやら皆目見当もつかない。 ほむらはそのまま踵を返し、違う道へと去っていく。 かける言葉もなく、見送るしかないまどか。

Part B

口恭介の病室 ベッドの上で、ヘッドホンを嵌め、窓の外の夕陽を眺めている恭介。ベッドサイドの椅子にはさやか。手には、今日も土産に買ってきたクラシックのCD。 さやか「...何を聴いてるの?」 恭介「亜麻色の髪の乙女」 さやか「...ああ、ドビュッシー? 素敵な曲だよね...」 返事はない。やや重い沈黙。戸惑いながらも言葉を続けるさやか。 さやか「ぁ、あたしって、ほら、こんなだからさあ、クラシックなんて聴く柄じゃないだろって、みんなが思うみたいでき。たまに曲名とか言い当てたら、すっごい驚かれるんだよね。意外すぎて尊敬されたりして、さ...」 恭介「...」 さやか「...恭介が、教えてくれたから...でなきゃあたし、こういう音楽ちゃんと聴こうと思うきっかけなんて、たぶん一生なかっただろうし...」 恭介「...さやかは、さ」 固い声で割り込んでくる恭介。さやか、思わず黙る。 さやか「...なあに?」 恭介「さやかは、僕をいじめてるのかい?」 さやか「...」 さやか、いったい何を言われたのかすぐには理解できず、硬直する。 振り向いてさやかを見る恭介。冷たい怒りの眼差し。 恭介「なんで今でもまだ僕に音楽なんか聴かせるんだ?嫌がらせのつもりなのか?」 訳も解らず、うろたえるさやか。 さやか「だって恭介、音楽が好きだから...」 恭介は、まるで自分の気持ちが通じていないことに、とうとう癇癪を起こす。 恭介「もう聴きたくなんかないんだよ!自分で弾けもしない山、ただ聴いてるだけなんて...僕は、僕は...」 怒りに任せて、左手をCDプレーヤーに叩きつける恭介。 皮膚が裂けて血が流れ、プレーヤーは粉々に。 さやか「ゃ、やめてッ!」 慌てて恭介の左腕を掴み、制止するさやか。 恭介、悔しさの余り泣き崩れる。 恭介「...動かないんだ...もう、痛みさえ感じない...こんな手なんて...」 さやか「大丈夫だよ。きっと何とかなるよ」 さやか、恭介を励ましたい一心で、無理と知りつつ虚しい激励を続ける。 さやか「諦めなければ、きっといつかーー」 恭介「諦めろって、言われたのさ」 泣きながら鼻を鳴らして自嘲する恭介。 恭介「もう演奏は諦めろってさ。先生から直々に言われたよ。今の医学じゃ無理だって」 さやか「...」 恭介「僕の手は、もう二度と動かない。奇跡か魔法でもない限り、治らない...」 やるせない想いに囚われていたさやかの眼差しに、ついに決意の光が灯る。 さやか「...あるよ」 恭介「...?」 さやか「奇跡も、魔法も、あるんだよ」 窓の外を見遣るさやか。 ベランダの手摺リに腰掛けてこちらを覗っているキユウベえの姿が、さやかの日にだけは見える。

口駅前商店街、夜 雑踏の中、帰路を急ぐまどか。 頭の中では、先刻のほむらとの会話がリフレインしている。 まどか「ほむらちゃん...ちゃんと話せば、お友達になれそうなのに...どうしてマミさんとはケンカになっちゃったのかな...」 ふと、少し先の人混みの中に、クラスメイトの仁美の姿があるのに気付くまどか。 まどか「あれ? ...仁美、ちゃん?」 小走りに追いついて、声をかけようとするまどか。 まどか「仁美ちゃん、今日はお稽古事はーー」 仁美「...」 仁美、まどかの声など聞こえていないかのように無視。 様子が変だと気付くまどか。そして仁美の首筋に、二話のOLと同じほ女の刻印を見咎める。 まどかM『!あれ...あのときの人と同じ!?』 慌てて仁美の前に回り込み、制止しようとするまどか。 まどか「仁美ちゃん!ねえ、仁美ちゃんってば!」 ぼんやりしていた仁美の眼差しが、ようやく焦点を結ぶ。 仁美「ーーあら、鹿目さん、ごきげんよう」 まどか「ど、どうしちゃったの?ねえ、どこに行こうとしてたの?」 仁美「どこって、それはーー」 何かに魅入られた眼差しで、艶然と微笑む仁美。 仁美「ここよりも、ずっと良い場所、ですわ」 まどか「仁美ちゃん...」 仁美「ーーああ、そうだ。鹿目さんも、ぜひご一緒に。ええ、そうですわ。それが素晴らしいですわ」

にこやかに眩いて、再び歩き出す仁美。まどかも放って はおけず、仕方なくついていく。 まどかM「どうしよう...これって、まさか...』

口街外れ 次第に繁華街を外れていく仁美。 気がつくと仁美の他にも、一人、また一人と同じ方向へ歩いている人々がいるのに気付くまどか。 皆、首筋には魔女の刻印が刻まれている。 まどかM 『ほむらちゃんに連絡できたら...ああ、駄目だあ、携帯の番号、わかんない...』 やがて一行は、郊外のうらぶれた小さな町工場へ。

口小さな町工場 作業場では、窶れた工場長とその家族が座リ込み、ブツブツと誠言を呟いている。 工場長「そうだよ...俺ア駄目なんだ...こんな小さな工場ひとつ、満足に切り盛リできなかった:::今みたいな時代にさあ...俺の居場所なんて、あるわけねえんだよなあ...」 街から工場までやってきた人々、総勢15人余り。全員が作業場に入ったところで、シャッターが下ろされ、部屋が密閉される。 工場長の奥さんがバケツを用意し、そこにトイレ用の洗剤を注ぎ始める。 さらに別の一人が、持ち寄った塩素系漂白剤を手にして進み川る。 x x × まどかの回想。洗面所で危険な洗剤についてレクチャーする詢子。 詢子「いいか、まどか? こういう塩素系の漂白剤はな、他の洗剤と混ぜるととんでもなくヤバいことになる。あたしら家政全員、猛毒のガスであの世行きだ。絶対に間違えるなよ」 × x x ようやく、彼らが何をしようとしているのか理解するまどか。 まどか「だ、駄目...それは駄目ッ!」 駆け寄って阻止しようとするまどかの手を、仁美が掴む。 仁美「邪魔してはいけません。あれは神聖な儀式ですのよ」 まどか「だって!ぁ、あれ危ないんだよッ。ここにいる人たちみんな死んじゃうよ!」 仁美「そう、私たちはこれからみんなで素晴らし世界へ旅に出すの。それがどんなに素敵なことか分かりませんか? 生きてる身体なんて邪魔なだけですわ。鹿目さん、あなたもすぐに分かりますから」 仁美の言葉に、周囲の人々が気怠げな拍手を送る。 まどか「はーーな、してッ!」 まどか、力ずくで仁美の手を振り払い、洗剤を入れたバケツを奥さんから奪い取る。 そしてそのまま窓へと駆け寄り、ガラスを割って、バケツを中身ごと外へと投げ捨てる。 ボトリ、漂白剤のボトルを取り落とす自殺志願者。 まどか「ーーふう」 安堵の吐息をつくまどか。だがすぐさま、猛烈な憎しみの気配に身を竦ませ、振り向く。 工場に集まった人々が、みな一様に日を殺意で淡らせ、まどかを包囲している。 まどか「つ...ツ」 怯えながらも、退路を探すまどか。幸いにもすぐ隣にドアが。 考える暇もなくドアの中へと逃げ込むまどか。問一髪、殺到してくる暴徒たち。

口町工場の物置 咄嗟にドアの鍵をかけるまどか。外から大勢がドアを殴る音。 だがようやく周囲を見渡すことができたまどかは、逃げ込んだのが、窓一つない小さな物置だと気付く。絶体絶命。 まどか「ど、どうしよう...どうしよう...」 狼狽するまどかのリの前で、部屋の片隅の空間が、妖しく盃む。 結界が聞き、魔女が現れる前兆だと気付いて、こんどこそ恐怖に囚われるまどか。 まどか「ゃ、やだ...そんなツ」 部屋の反対側の隅まで追い詰められ、腰を抜かすまどか。 だが異界化はじわじわと進行し、まどかの周囲の空間を侵食していく。 まどか「ーーいやだ...助けて...誰か...」 ついに周囲は完全に異界化。結界に取り込まれたまどかの前に、魔女が姿を現す。 まどか「...ツ!!」 悲鳴を噛み殺すまどか。 だがその脳裏には、諦観に冷めきった声が湧く。 まどかM『罰なのかな...これって』 記憶を掠めるマミのイメージ。 マミと交わした誓いの言葉と、その直後に訪れた無惨な離別。 まどかM「きっと、わたしが弱虫で、嘘つきだったから...バチが当たっちゃったんだ」 観念するまどか。泣きべそをかいたまま放心し、目を閉じる。 迫る魔女ーーだがそこに、闇を切り裂く光。 魔女「ギヤアアアツ!!」 魔女の絶叫に、驚いて目を見開くまどか。 目の前には、たった今、魔女に会心の一撃を叩き込んだばかりの魔法少女が剣を構えている。 変身したさやかである。 まどか「...え?」 さやか、立て続けに剣で斬りつける。荒削りで力任せのフアイテイングスタイル。だがその勢いに圧倒され、魔女は手も足も出ない。 さやか「これでーートドメだあツ!」 さやかの必殺技が炸裂。 絶叫とともに消滅していく魔女。

口街外れ 魔女の気配を察知して、夜道を駆けているほむら。 だが、目指す町工場の前まで来たところで、魔力が一気に散逸していくのを感知し、眉をひそめる。 ほむら「結界が...消えた?」

口町工場の物置 結界は解け、普通の空間に。物置の壁には大穴が開き、外の街路が見えている。(さやかが乱入するため彼壊した) またドアを隔てた作業場では、仁美や工場長ほか、魔女に呼び寄せられた人々が全員、気を失って倒れている。 目の前の出来事がまだ信じられないでいるまどか。 まどか「さやか...ちゃん?」 さやか「やー、ごめんごめん。危機一髪ってとこだったね」 魔法少女スタイルのまま、普段の快活さで、まどかにニツコリと笑いかけるさやか。 まどか「その格好...」 さやか「ん?あー、アハハ、まあ、何? 心境の変化、っていうのかな」 まどか「...」 不安げなまどか。それを励ますように、優しく微笑むさやか。 さやか「ーー大丈夫だって。初めてにしちゃ、上手くやったでしょ?あたし」 まどか「でも...」 そこへ、壁の大穴から、用心深い足取りでほむらが中に踏み込んでくる。 さやかの格好を見た途端、しまった、という顔で歯噛みするほむら。 ほむら「あなたは...」 さやかもほむらに対し、挑発的な笑みを投げかける。 さやか「ふん、遅かったじゃない。転校生」 まどか「ぁ...」 さっそく敵意剥き山しの二人を見比べて、ますます不安に苛まれるまどか。

口恭介の病室 消灯時間を過ぎた、閣の中。 ふと違和感に目を覚ます恭介。 恭介「...ん...?」 月明かりの中で、掲げた左手の指が、確かな手応えとともに動く。 寝惚け限のまま、ぼんやりとその奇跡を眺める恭介。

口郊外・送電塔 繁華街の灯を遠くから見下ろす送電塔の頂上。 突風に煽られながら、平然と腰掛けて、クレープをむしゃむしゃ食べている魔法少女ーー佐倉杏子。 その隣には並んでキユウベえが座っている。 キユウベえ「まさか、キミが来るとはね...」 杏子「マミの奴がくたばったって聞いたからさ7、わざわざ出向いてやったってのに...何なのよ、ちょっと話が違うんじゃない?」 キユウベえ「悪いけど、この土地にはもう新しい魔法少女がいるんだ。ついさつき契約したばかりなんだけどね」 杏子「何ソレ? ちょおムカツク...」 鼻を鳴らして、遠くの街を眺める杏子。 杏子「でもさー、こんな絶好の縄張リ、みすみすルーキーのヒヨッコにくれてやるつてのも癪だよねえ」 キユウベえ「どうするつもりだい?杏子」 杏子「決まってんじゃん」 キユウべえに向けて、邪な笑顔を投げかける杏子。 杏子「要するに、ブッ潰しちゃえばいいんでしょ?その子」