The Beginning Story: Episode 6

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Part A

裏路地(五話より続き)
戦いの最中、思わぬ空振りに目を疑うさやかと杏子。
そんなこ人の間には、魔法少女スタイルのほむらが佇んでいる。
まどか「ほむらちゃん...」
さやか「ぉ、おまえ...」
杏子は直感で、ほむらに邪魔されたと悟り怒りをぶつける。
杏子「何しゃがったテメェ!」
ほむら目掛けて振るわれる杏子の槍。
だがほむらは瞬間移動で杏子の背後に。
杏子「なーー」
今度こそ血相を変え、飛び退いて振り向きながら身構える杏子。
無言で見つめ返すほむら。
杏子、ひとまず冷静さを取り戻し、不敵に微笑む。
杏子「そうか、アンタが噂のイレギュラーってやっか...妙な技を使いやがる...」
さやか「邪魔するなッ!」
ダメージから回復したさやかが、またも杏子へと斬りかかる。
即座に瞬間移動でさやかの背後に廻るほむら。さやかの首根つこを掴んで、後頭部に杖で一撃。
さやか「ぐう...ツ」
意識を失い、ぐったりとなるきゃか。
ほむらはさやかの身体を放り捨て、再び杏子へと向き直る。
まどか「さやかちゃん!」
駆け寄って抱き起こすまどか。
キユウベえ「大丈夫、気絶してるだけだ」
そう告げながらも、キユウべえは油断なくほむらと杏子を注視している。
杏子はほむらの真意を計りかねて訝しげ。
杏子「...何なんだアンタ? いったい誰の味方だ?」
ほむら「私は冷静な人の味方で、無駄な争いをする馬鹿の敵。ーーあなたは、どっちなの? 佐倉杏子」
杏子「ツ!?」
名乗ってもいないのに名前で呼ばれ、やや驚いて警戒する杏子。
杏子「ーーどこかで会ったか?」
ほむら「さあ、どうかしら」
杏子「...」
相手の正体不明ぶりにますます警戒を募らせる杏子。このまま事を構えるのは不利だと判断し、槍を退く。
杏子「手札がまるで見えないとあっちゃね...今日のところは降りさせてもらうよ」
ほむら「賢明ね」
素早く、隙を見せずに、一跳びでその場を離脱する杏子。
ひとまずは危機が去ったものかと安堵しかかるまどか。
ほむらの表情をおそるおそる窺う。
まどか「助けて...くれたの?」
そんなまどかを、冷たく厳しい眼差しで一瞥するほむら。
ほむら「いったい何度忠告させるの?どこまであなたは愚かなの?」
まどか「...」
返事に詰まるまどか。
ほむら「あなたは関わり合いを持つべきじゃないと、もうさんざん言って聞かせたわよね」
まどか「わたしは...」
ほむら「愚か者が相手なら、私は手段を選ばない」
まどか「ッ...」
まどかが警告を噛み締めるのを見届け、ほむらは踵を返し、その場を去る。
キユウべえはまどかの背後から、ほむらを警戒の眼差しで眺める。
まどか「ほむらちゃん...どうして...」
キユウベえ「何にせよ、彼女が何かを企んでいるのは確かだ。くれぐれも気をつけて」
去っていくほむらの背中を、涙白で見送るまどか。一方で、キユウベえの視線はあくまで冷静。
キユウベえM「暁美ほむら...君は、まさか...」
さやかの部屋
四話で入手したグリーフシードに、自分のソウルジエムを触れ合わせるさやか。
ソウルジエムの濁りは消え、グリーフシードは黒みを増す。
キユウベえ「これでまたしばらくは大丈夫だ」
黒く染まったグリーフシードを不気味そうに眺めるさやか。
さやか「つわぁ、真っ黒...」
キユウベえ「もう危険だね。これ以上の穢れを吸ったら、魔女が孵化するかもしれない」
さやか「ええっ?」
キュゥベえ「大丈夫。貸して」
キユウべえは、さやかから受け取った黒いグリーフシードを、背中の卵形ポケットに放り込む。光を発して、平たくなるポケット。満腹そうにゲツプをするキユウべえ。
キユウべえ「これでもう安全だ」
さやか「...食ぺちゃったの?」
キユウべえ「これもまた僕の役目の一つだからね」
胸を張るキユウベえ。だが、やや心配げな面持ちになって、さやかのソウルジエムを見る。
キユウベえ「でも、また次にソウルジエムを浄化するためには、早く新しいグリーフシードを手に入れないと」
さやかは杏子のことを思い出して、顔を顰める。
さやか「これを綺麗にしておくのって、そんなにも大切なことなの?」
キユウベえ「佐倉杏子は、強かっただろう?」
ずばり言われて、ますます表情を強張らせるさやか。
キユウべえ「彼女は常にソウルジエムを最良のコンデイシヨンに保ってる。だからこそあれだけの魔力を発揮できる」
さやか「だからって、グリーフシードのために他の人を犠牲にするなんて...」
キユウベえ「魔力を使えば使うほど、ソウルジエムには穢れが溜まるんだ。さやか、君がグリーフシードを集められない限り...杏子と戦っても勝ち目はないと思っていい」
さやか「うーん、何だかなあ...」
釈然としない思いで、天井を仰ぐさやか。
さやか「マミさんだって、充分なグリーフシードを持ってたわけじゃないんでしょ?でもちゃんと戦えてたよね...やっぱアレ? 才能の違いとか、あるの?」
キユウベえ「確かにそれは事実だね」
すげなく返答され、しょぼくれるさやか。
さやか「ずーるーいーっ、不公平だーつ」
キユウベえ「こればかりは仕方ないよ。杏子は素質がある上にベテランだし、逆にまったく経験がなくても、才能だけで杏子以上の魔法少女になれる天才だっている」
さやか「誰よ、それ」
キユウベえ「鹿目まどかさ」
さやか「...」
驚きと困惑の入り交じった表情で押し黙るさやか。
さやか「...まどかが? それ本当?」
キユウべえ「ああ。だから、もしどうしても杏子に対抗する戦力が欲しいなら、いっそまどかに頼んでみるのも手だよ。彼女が伐と契約すればーー」
さやか「ううん、駄目」
キユウベえに皆まで言わさず、否定するさやか。
さやか「これは、あたしの戦いなんだ。あの子を巻き込むわけにはいかない...」
決意を込めて、ソウルジェムを見つめるさやか。
繁華街の裏路地(昼)
昨夜の戦いから一夜明け、魔女の結界のあった辺りを調べているさやかとキユウベえ。それを後ろから見守っているまどか。
裏路地のそこかしこには、戦闘の痕跡が伐っている。それが目に留まるたび、さやかと杏子の戦いを思い出し、憂鬱になるまどか。
キユウベえ「駄目だ。時間が経ちすぎてる。ゆうべの魔女を追う手がかりはなさそうだ」
さやか「そう...」
厳しい表情のさやか。その本気ぶりが、今となっては、まどかには恐い。
まどか「ねえ、さやかちゃん...このまま魔女退治を続けてたら、また昨日の子と会うんじゃないの?」
さやか「まあ当然、そうなるだろうね」
さやかは既に覚悟を決めた表情。まどかは怯みそうになるものの、堪えて続ける。
まどか「だったらさ、先にあの子ともう一度会って、ちゃんと話をしておくべきじゃないかな...でないとまた、いきなりケンカの続きになっちゃうよ」
さやか「ケンカね...」
分かってない、とでも言いたげに失笑するさやか。
さやか「ゆうべのアレが、まどかには、ただのケンカに見えたの?」
まどか「...」
さやか「あれはね、正真正銘、殺し合いだったよ。お互い、ナメでかかってたのは最初だけ。途中からは、あいつも、あたしも、本気で相手を終わらせようとしてた」
まどか「そんなの...なおさら駄目だよ...」
さやか「だから話し合えって? 馬鹿言わないで。相手はグリーフシードのために人間を餌にしようって奴なんだよ。どうやって折り合いつけろっていうの?」
あくまで頑ななさやかに対し、まどかは必死に食い下がる。
まどか「さやかちゃんは、魔女をやっつけるために魔法少女になったんでしょ?...あの子は魔女じゃない。同じ魔法少女なんだよ」
さやか「...」
まどか「探せぼさっと、仲良くする方法だってあると思うの。やり方は違っても、魔女を退治したいと思う気持ちは同じでしょ?昨日の子も...あと、ほむらちゃんも」
ほむらの名前を聞いて、さらなる怒りに表情を強張らせるさやか。
だがまどかは気づかずに、さらに先を続けてしまう。
まどか「マミさんだって、ほむらちゃんとケンカしてなかったら...あんな風に死なずに済んだはずだよ」
さやか「そんなわけない!」
怒リに声を荒げるさやか。驚いて身を竦ませるまどか。
さやか「まどかだって、見てたでしょ?あのときアイツは、マミさんがやられるのを待ってから魔女を倒しにきた。アイツはグリーフシードほしさにマミさんを見殺しにしたんだ!」
まどかの脳裏をよぎる回想。マミの魔術によって動きを封じられていたほむら。
まどか「それ...違うよ...」
さやか「あの転校生も、昨日の杏子ってヤツと同類なんだ。自分の都合しか考えてない。今なら分かるよ。マミさんだけが特別だったんだ。他の魔法少女なんて、あんなヤツらばっかりなんだよ」
まどか「そんな...」
何とか誤解を解こうとしどろもどろになるまどか。一方でさやかは、厳しい眼差しでまどかを正面から見据える。
さやか「ゆうべ逃がした魔女は小物だったけど、それでも人を殺すんだよ。次にあいつが狙うのはまどかのパパやママかもしれない。タッくんかもしれないんだよ?それでもまどかは平気なの?放っとこうとするヤツを許せるの?」
まどか「...」
言い返せないまどか。
さやか「あたしはね、ただ魔女と戦うためじゃなくて、大切な人を護るために、この力を望んだの。だからーーもし魔女より悪い人間がいれば、あたし、戦うよ。たとえそれが魔法少女でも」
まどか「さやかちゃん...」
さやか「嫌なら、一緒に来なくてもいいよ。...見てて気持ちがいいものじゃないだろうしね」
まどかを残し、裏路地から出て行くさやか。
キユウベえも、まどかに気を遣いつつ、さやかの後を追ぉ、っとする。
まどか「キユウベえも、何とか言ってよ...」
まどかの言葉に、悲しげに首を振るキユウベえ。
キユウベえ「僕から言わせてもらえるのは、無謀すぎる、ってことだけだ。今のさやかじゃあ、暁美ほむらにも、佐倉杏子にも勝ち目はない。ーーでもね、さやかは聞き届けてくれないよ」
ゲームセンター
ダンスゲームに興じている杏子。
足では余裕の身のこなしでパネルを踏みながら、手では淡々とポツキーを食べている。壁にはつノレイ中の飲食はご遠慮ください」の張り紙。
そこに現れるほむら、杏子の気を惹くようなことはせず、静かにゲーム筐体の横に立つ。
杏子もまた、振り同くこともなくほむらの存在に気付く。
それでも一瞥もくれず、目はゲーム画面に向けたまま。
杏子「よお...今度は何さ?」
ほむら「この街をあなたに預けたい」
ほむらの意外な言葉に、ポツキーを囓る杏子の手が一瞬だけ止まる。だがゲームは淡々と継続。
杏子「どういう風の吹き回しよ?」
ほむら「魔法少女には、あなたみたいな子が相応しいわ。美樹さやかでは務まらない」
鼻で笑う杏子。
杏子「フン、元よりそのつもりだけどさ...そのさやかつて奴はどうする?放っときゃ、またつっかかってくるよ?」
ほむら「なるべく穏便に済ませたい。あなたは手を出さないで。わたしが対処する」
しばらく黙々と、ポッキーを囓り続ける杏子。淀みなく鮮やかにクリアされていくゲームのステージ。
杏子「ーーまだ肝心なところを聞いてない」
普段の斜に構えた不敵さとは違い、いつになく真顔の杏子。
杏子「あんた何者だ? 一体、何が狙いなのさ?」
ほむら「...2週間後、この街に『ワルプルギスの夜』が来る」
やや眉をひそめる杏子。
杏子「なぜ分かる?」
ほむら「それは秘密。ともかく、そいつさえ倒せたら私はこの街を出て行く。あとはあなたの好きにすればいい」
杏子「ふうん...」
納得する杏子。いよいよゲームのファイナル。鮮やかにステップを決める。
杏子「ワルプルギスの夜ね...たしかに一人じゃ手強いが、二人がかりなら勝てるかもな」
杏子、ダンスゲームを満点でクリア。不敵な笑みを浮かべつつ、ほむらにボツキーの箱を差し出す。
杏子「食うかい?」

Part B

口まどかの寝室 明かりを消し、ベッドに入ったまま、まんじりともせず天井を見つめているまどか。 階下で、玄関のドアの開閉音。休日出勤のうえ午前様の詢子が、ようやく帰宅したらしい。続いてシャワーを使う物音。しばし悩んでから、ベッドを抜け出すまどか。

口鹿自家ダイニングキッチン テーブルには知久の書き置きーー『お疲れ様。冷蔵庫にポテトサラダあります』 パスロープ姿の詢子、ポテトサラダを肴に、一人で水割りで晩酌中。そこへ寝間着の上からガウンを羽織ったまどかがやって来る。 詢子「眠れないのかい?」 まどか「うん...ちょっといい?」 領く詢子。まどかはキッチンから自分のグラスとジュースを取ってくる。 まどかが注いだジュースに一詢子がアイスペールから氷を入れてやり、乾杯する母娘。お互いに慣れている。 一口ジュースに口をつけてから、語り出すまどか。 まどか「友達がね...大変なの。やってることも、言ってることも、たぶん間違ってなくて...なのに、正しいことを頑張ろうとすればするほど、どんどん酷いことになってくの...」 詢子「よくあることさ」 さらりと応じる詢子。 詢子「悔しいけどね、正しいことだけ積み上げていけばハツピーエンドが手に入るってわけじゃない。むしろ皆が皆、自分の正しさを信じ込んで意固地になればなるほどに、幸せって遠ざかってくもんだよ」 まどか「間違ってないのに、幸せになれないなんて...ひどいよ」 詢子「うん」 まどか「わたし、どうしたらいいんだろ?」 しばしグラスを見つめる詢子。 詢子「...そいつばっかりは、他人が口を突っ込んでも綺麗な解決はつかないねえ」 まどか「...」 まどかは詢子を見つめて続きを待つ。娘が納得できていないと知り、溜息まじりに先を続ける詢子。 詢子「たとえ綺麗じゃない方法だとしても、解決したいかい?」 まどか「うん」 詢子「ならーー間違えればいいのさ」 グラスを揺らし、氷で水割りを混ぜる詢子。 詢子「正しすぎるその子のぶんまで、誰かが間違えてあげればいい」 まどか「間違える...?」 詢子「ずるい嘘をついたり、恐いモノから逃げ出したり、でもそれが、後になってみたら正解だったって分かることがある。本当に他にどうしょうもないほどどん詰まりになったら、いっそ思い切って間違えちゃうのも手なんだよ」 まどか「それが、その子のためになるって...分かってもらえるかな?」 詢子「解ってもらえないときもある。特にすぐにはね。言ったろ?綺麗な解決じゃないって。...その子のことを諦めるより、誤解される方がまだマシだと思うかい?」 まどか「...」 思い悩むまどかを前に、詢子は酒をロにしつつ、優しく微笑む。 詢子「まどか、あんたはいい子に育った。嘘もつかないし、悪いこともしない。いつだって正しくあろうとして頑張ってる。子供としてはもう合格だ。...だからね、大人になるまえに、今度は間違え方もちゃんと勉強しておきな」 まどか「勉強...なの?」 詢子「若いうちは怪我の治りも早い。今のうちに上手な転び方を覚えといたら、後々きっと役に立つよ。...大人になるとねー、どんどん間違えるのが難しくなっちゃうんだ。プライドとか責任とかね、護るモノ、背負ったモノが増えるほど、下手を打てなくなってくの」 まどか「ふうん...」 詢子の言葉に考え込みながら、ゆっくりジュースを飲むまどか。 まどか「それって、辛くない?」 詢子「大人は誰だって辛いのさ。だから酒飲んでもいいってことになってんの」 冗談めかして笑う詢子。つられてまどかも笑う。 まどか「わたしも、早くママとお酒飲んでみたいなあ」 詢子「さっさと大きくなっちゃいな。辛いぶんだけ楽しいぞぉ、大人は」

口恭介の病室 夕方。いつものように、見舞いの手土産を持って訪れるさやか。 だが恭介のベッドは空で、私物も綺麗に片付けられている。 さやか「...あれ?」 途方に暮れるさやか。その背中を見咎める看護師A。 看護師A「あら?上条さんなら昨日退院したわよ」 さやか「そ、そうなんですか?」 看護師A「リハビリの経過も順調だったから、予定が前倒しになってーー連絡、行つてなかったの?」 さやか「ええ、まあ」 曖昧な愛想笑いでお茶を濁すさやか。

口上条家の前 夜。病院からそのままの足で、上条家の門前に立っさやか。 チャイムを押すかどうか、やや逡巡しているうちに、ふと微かにヴァイオリンの旋律を聞き咎める。 レッスンに没頭している恭介の演奏である。 さやか「...」 演奏に耳を澄ますさやか。ただ聞いているだけでも、大変な集中力で練習に入れ込んでいる恭介の気迫が伝わってくる。 とても邪魔できない、と思ったさやかは、寂しげに微笑んで、チャイムを押そうとしていた手を引っ込める。 そのまま帰ろうとするさやか。だがすぐさま、緊張の面持ちで立ち止まる。 さやかの行く手に、闇の中から街灯の光の中へと、ゆっくり歩み出てくる杏子。手にしたチユロスを囓っている。 杏子「ーー会いもしないで帰るのかい?今日一日追いかけ回したくせに?」 さやか「おまえは...」 杏子「知ってるよ。この家の坊ゃなんだろ? あんたがキユウベえと契約した理由って。...まったく。たった一度の奇跡のチャンスを、クダラネエ事に使い潰しゃがって」 さやか「お前なんかに...何が分かる!」 杏子「分かってねえのはそっちだパヵ。魔法つてのはね、徹頭徹尾、自分だけの望みを叶えるためのもんなんだよ。他人のために使ったところでロクなことにはならないのさ。ーー巴マミは、その程度のことも教えてくれなかったのかい?」 さやか「...ツ」 マミに全く同じことを諌められた記憶が蘇り、歯噛みするさやか。 杏子「惚れた男をモノにするなら、もっと冴えた手があるじゃない? せっかく手に入れた魔法でさあ」 さやか「...なに?」 杏子「今すぐ乗リ込んでいって、坊やの手も足も、二度と使えないぐらいに潰してやりな。もう一度、あんた無しでは何もできない身体にしてやるんだよ。そうすれば今度こそ坊やはアンタのもんだ。身も心も全部、ね」 さやか「...ツ」 怒りのあまり言葉を失うさやか。 杏子 「気が退けるってんなら、アタシが代わりに引き受けてもいいんだよ?同じ魔法少女のよしみだ。おやすい御用さ」 さやか「...絶対に...お前だけは絶対に、許さない...今度こそ必ず...ツ」 殺気立つさやかを前にして、不敵に笑う杏子。 杏子「場所を変えようか。ここじゃ人目に付きそうだ」

口鹿目家、まどかの私室 勉強机について宿題を片付けているまどか。 だがまったく集中できず、物思いに耽っている。脳裏をよぎるのは昨夜の詢子の言葉。 詢子M「ーー正しすぎるその子のぶんまで、誰かが間違えてあげればいいーー』 まどか「そんなこと、言われでも...」 そのとき、まどかの脳裏にキユウベえからのテレパシーが届く。 キユウベえ『まどか...まどか!』 ぎょっとして振リ向くまどか。すると部屋の窓の外に、キユウベえがしがみついている。 キユウベえ『急いで!さやかが危ない! ついてきて!』

口高速道路上の跨道橋 4車線の高速道路を跨ぐ、小さな橋。眼下の高速道路は往来が激しく騒がしい一方で、橋の上は一種の死角となり、誰の自にも留まらない。 やや距離を置いて対時するさやかと杏手。杏子は相変わらずチユロスを食べている。 杏子「ここなら遠慮はいらないよねえ。いっちょ派手にいこうじゃない」 杏子、魔法少女スタイルに変身。さやかもまたソウルジエムを手に身構える。 そこに駆けつけるまどかとキユウベえ。 まどか「待って、さやかちゃん!」 さやか「まどか...」 一瞬、虚を突かれるさやかだが、すぐにまた闘志の表情に戻る。 さやか「邪魔しないで。そもそもまどかは関係ない話なんだから」 まどか「駄目だょこんなの!絶対おかしいよ!」 必死に制止するまどかに、冷笑を浴びせる杏子。 杏子「フン、ウザイ奴にはウザイ仲間がいるもんだねえ」 ほむら「じゃあ、あなたの仲間はどうなのかしら?」 不意に杏子の背後に姿を現すほむら。忌々しげに舌打ちする杏子。 ほむら「話が違うわ。美樹さやかには手を出すなと言った筈よ」 杏子「あんたのやり方じゃ手緩すぎるんだよ。ーーどのみち、向こうはやる気だぜ」 ほむら「なら...」 変身するほむら。 ほむら「...私が相手をする。手出ししないで」 杏子「フン」 杏子、短くなったチュロスを掲げて、 杏子「じゃあコイツを食い終わるまで待ってやる」 ほむら「充分よ」 杏子とほむらのやりとりを聞いて、ますます怒るさやか。 さやか「舐めるんじゃ、ないわよ...」 ソウルジエムを掲げ、変身しようとするさやか。 見かねたまどかは、即座に覚悟を決める。 まどか「さやかちゃんーーごめん!」 いきなり横合いから、さやかの手の中のソウルジエムを奪い取るまどか。 さやか「なっ...!?」 さやかのみならず、杏子とほむらも呆気にとられる。 まどかは奪い取ったソウルジエムを、即座に跨道橋の下の高速道路へと投げ捨てる。 ソウルジエムは、たまたま真下を走っていたトラックの荷台にひっかかり、一瞬のうちに彼方へと運び去られていく。 はむら「ーーまずいッ!」 血相を変えるほむら。いきなり瞬間移動(に見える時間操作)で姿を消し、トラックの後を追う。 さやか「まどか...あんた何てことをツ」 まどか「だって、こうしないと...」 まどかに食つでかかろうとするさやか。だが急に脱力し、 まどかの腕の中に倒れ込む。 まどか「...さやかちゃん?」 何が起こったのか分からずきょとんとなるまどか。 さやかは虚ろな目をしたまま、身動きひとつしない。 キユウべえ「今のはまずかったよ、まどか」 呆れ果てたかのように、かぶりを振るキユウベえ。 キユウベえ「よりにもよって友達を放り投げるなんて、どうかしてるよ」 まどか「何?...何なの?」 強張った表情でずかずか歩み寄ってくる杏子。いきなり乱暴にさやかの首を掴む。 慌てて抵抗するまどか。 まどか「ゃ、やめて!」 杏子「...どういうことだ、おい?」 杏子、まどかではなくキユウベえに向けて、押し殺した声で問、っ。 杏子「こいつ、死んでるじゃねーかよ!」 驚きのあまり表情が凍りつくまどか。

口高速道路 さやかのソウルジエムを荷台に載せたまま先行するトラックを、述続テレポートで必死に追うほむら。(実際には何度も時を止め、そのたびに全力疾走を繰り返してます)

口跨道橋の上 依然、何の反応もないさやかの身体。呼吸も脈もない。 事態が理解できず呆然となるまどか。 まどか「さやかちゃん、ねえ、さやかちゃん...起きて、ねえ?」 何度もさやかの肩をゆするまどか。だがさやかの首は人形のようにぐらぐらと揺れるだけ。 まどか「ねえ、ちょっと...どうしたの?ねえ!?嫌だよ、こんなの...さやかちゃあん!!」 パニックに陥るまどか。杏子もまた、理解を超えた状況に焦る。 杏子「何がどうなってやがんだ、おい...」 キユウベえ「君たち魔法少女が身体をコントロールできるのは、せいぜい100メートル圏内が限度だからね」 ただひとり、冷静なまま説明するキユウベえ。 杏子「100メートル? 何のことだ? どういう意味だ!?」 キユウべえ「普段は当然、肌身離さず持ち歩いてるんだから、こういろ事故は滅多にあることじゃないんだけど...」 まどか「何言ってるのよキユウベえ!助けてよ!さやかちゃんを死なせないで!」 半狂乱でキュゥベえに訴えるまどか。だがキュゥべえは溜息まじりに、 キユウベえ「まどか、そっちはさやかじゃなくて、ただの抜け殻なんだって」 まどか「え...」 途方に暮れるまどか。 キユウベえ「さやかはさっき、君が投げて捨てちゃったじゃないか」 杏子「な...」 キユウベえの言葉の意味を悟り、愕然と、自分のソウルジエムを見つめる杏子。 杏子「なん...だと?」

口高速道路 引き続き、トラックを追っているほむら。 何とかして荷台の端にしがみつき、上へと這い上がる。 キユウベえoff「ただの人間と同じ壊れやすい身体のままで、魔女と戦ってくれなんて、とてもお願いできないよ」 荷台の片隅に引っかかっていたさやかのソウルジエムを掴み取るほむら。安堵の溜息。 キユウベえoff「君たち魔法少女にとって、もとの身体なんでいうのは外付けのハードウエアでしかないんだ。君たちの本体としての魂には、魔力をより効率よく運用できる、コンパクトで安全な姿が与えられてる」

口跨道橋の上 恐怖に顔を引き攣らせたまどかと杏子の前で、淡々と説明を続けているキユウベえ。 キユウベえ「魔法少女との契約を取り結ぶ僕の役目はね、君たちの魂を抜き取って、ソウルジエムに変えることなのさ」 杏子「てめえは...なんてことを...」 怒りのあまりキユウベえの耳を鷲掴みにする杏子。 杏子「ふざけるんじゃねえ!それじゃアタシたち、ゾンピにされたようなもんじゃないか!」 キユウベえ「むしろ便利だろう?心臓が破れても、ありつたけの血を抜かれでも、その身体は魔力で修理すればすぐまた動くようになる。ソウルジエムさえ砕かれない限り君たちは無敵だよ。弱点だらけの人体よりも、よほど戦いでは有利じゃないか」 まどか「ひどいよ...そんなの、あんまりだよ...」 だがキユウべえは何ら悪びれた風もなく、むしろ心底途方にくれている。 キユウベえ「...君たちはいつもそうだね。事実をありのままに伝えると、決まって同じ反応をする。訳が分からないよ。どうして人間はそんなに、魂の在処にこだわるんだい?」 杏子「...ツ」 怒りにわなわなと震える杏子。さやかの死体を抱いたまま、涙に暮れるまどか。 そこへ帰還するほむら。持ち帰ったソウルジエムを、さやかの手に握らせる。 直後、ぷるりと身震いして目を開けるさやか。 さやか「...あ...?」 しばらく状況が呑み込めず、さやかは途方に暮れて辺りを見回す。 さやか「...何? 何なの?」