The Beginning Story: Episode 11

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Part A

Homura Room

Homura Room ほむらの部屋
九話の続き。卓袱台の前に座るほむらと、卓上に拡げられた地図の上に座っているキユウベえ。
キユウベえ「時間遡行者、暁美ほむらーー過去の可能性を切り替えることで数多の平行世界を横断し、君が望む結末を求めてこの一ヶ月間を繰り返してきたんだね」
ほむら「...」
キユウベえ「君の存在が、ひとつの疑問に答えを出してくれた。何故、鹿目まどかが魔法少女としてあれほど破格の素質を備えていたのか...今なら納得いく仮説が立てられる」
ほむら「...何ですって?」
キユウベえ「魔法少女としての潜在力はね、背負い込んだ因果の量で決まってくる。一国の女王や救世主ならともかく、ごく平凡な人生だけを与えられてきたまどかに、どうしてあれほど莫大な因果の糸が集中してしまったのか不可解だった。だが...ねえほむら、ひょっとしてまどかは、君が同じ時間を繰り返すごとに、強力な魔法少女になっていったんじゃないのかい?」
ほむら「...ッ!」
ほむら、最初のループで無惨に敗北したまどかと、前回のループでワルプルギス以上の魔女に変貌したまどかのことを思い出す。
ほむらの表情を読んで、にやりと笑うキユウベえ。
キユウベえ「...やっぱりね。原因は君にあったんだ。正しくは君の魔法の副作用、というべきかな」
ほむら「...どういうことよ?」
キユウベえ「君が時間を巻き戻してきた理由はただひとつ、鹿目まどかの安否だ。同じ理由と目的で何度も時間を遡るうちに、君は幾つもの平行世界を螺旋状に束ねてしまったんだろう。鹿目まどかの存在を中心軸にして、ね」
キユウベえ「その結果、決して絡まるはずのなかった平行世界の因果線が、すべて今の時間袖のまどかに連結されてしまったとしたら...彼女の、あの途方もない魔力係数にも納得がいく。君が繰り返してきた時間、その中で循環した因果のすべてが、巡り巡って鹿目まどかに帥繋がってしまったのさ。あらゆる出来事の元凶として、ね」
ほむら「...ツ」
ショックのあまり、目を見開いてわななくほむら。
キユウベえ「お手柄だよ、ほむら。君がまどかを最強の魔女に育ててくれたんだ」

Miki Family Home

Miki Family Home 美樹家
雨の中、しめやかに行われるさやかの葬儀。
和子先生や、まどかとそのクラスメイトも参列している。
死んだような虚ろな目で一切の表情を消してるまどか。
葬儀の光景を背景に、ニュース報道の音声が被る。
ニュースキャスターoff「12日より行方が分からなくなっていた市立見滝原中学校二年生の美樹さやかさんが、今朝未明、市内のホテルで遺体となって発見されました。遺体に目立った外傷はなく、発見現場にも争った痕跡がないことから、警察では事件と事故の両面で捜査を進めています。ーー続いて、天気予報です。今夜は北西の風がやや強く、雨、所により雷雨を伴う場所がーー」

Kaname Home - Entrance

Kaname Home - Entrance 鹿目家玄関
葬儀から帰宅するまどか。
詢子「ーーお帰り」
休日で在宅の詢子が玄関で出迎える。トレーナーにスウエットパンツの部屋着姿。制服姿のまどかの肩に塩をかけてやる。
黙ってお清めを受けてから、靴を脱ぐまどか。心ここにあらずの様子。
詢子「...なあ、まどか」
やや声をかけづらそうに、まどかに呼びかける詢子。
まどか「...?」
詢子「さやかちゃんの件...本当に、何も知らないんだな?」
まどか、まったくの無表情と虚ろな眼差しのまま、小さく頷く。
まどか「うん」
詢子「...」
詢子とすれ違い、自室に戻るまどか。詢子は重ねて問いたいものの言葉が喉に詰まり、何も言えず。

Madoka Room

Madoka Room まどかの私室
明かりを消した薄暗い室内。着替えもせず、勉強机に突っ伏しているまどか。
その背中を、やや離れてキユウベえが見守っている。
まどか「さやかちゃんも、杏子ちゃんも、死んじゃった...」
キユウベえ「意外な展開ではないよ。予兆はずいぶん前からあった」
冷たい口調のキユウベえを、怒りを込めて睨みつけるまとか。
まどか「どうでもいいっていうの?みんな、あなたのせいで死んだようなものなのに」
まどかの剣幕に、途方に暮れて歎息するキュゥべえ。
キユウベえ「たとえば君は、家畜に対して引け目を感じたりするのかい? 彼らがどういうプロセスで君たちの食卓に並ぶのかーー」
キユウベえ、まどかの脳裏にテレパシーで食肉工場の光景を送り込む。吊るされ捌かれる牛肉、豚肉、ヶージに詰め込まれたブロイラーのイメージが、続々とまどかの精神に流れ込む。
思わず頭を押さえ、拒絶するまどか。
まどか「やめてよッ!」
キュゥベえ「その反応は理不尽だ。この光景を残酷と思うなら、君には本質がまったく見えていない」
次にキユウベえが送り込んでくるイメージは、牧場で長閑に草をはんでいる牛と、岩山で寒さを堪えている野牛の比較。
キユウべえ「彼らは人間の糧になることを前提に、生存競争から保護され、淘汰されることなく繁殖している。牛も豚も鶏も、他の野生動物と比べれば、種としての繁栄ぷりは圧倒的だ。君たちはみな理想的な共栄関係にあるじゃあないか」
まどか「...同じことだって言いたいの?」
キユウべえ「むしろ僕らは、人類が家畜を扱うよりも、ずっと君たちに対して譲歩しているよ。まがりなりにも知的生命と認めた上で交渉しているんだしね」
まどか「...」
まどかの無言の拒絶に、歎息するキユウベえ。
キユウベえ「信じられないのかい?それなら見せてあげようか。インキュベーターと人類が共に歩んできた歴史を」
キユウべえ、まどかの机の上に飛び乗り、指先でまどかの額に触れる。
その途端、まどかの意識の中に、膨大な歴史のイメージが流れ込んでくる。石器時代から文明の曙の光景。そして後の時代には神話として語られることになる、古代の魔法少女たちの活躍。
キユウベえoff「僕たちはね、有史以前から君たちの文明に千渉してきた。数え切れないほど大勢の少女がインキュベーターと契約し、希望を叶え、そして絶望に身を委ねていった」
巫女として祭り上げられる魔法少女たち。魔女裁判で火炙りにされる魔法少女たち。
クレオパトラ、卑弥呼、ジヤンヌ・ダルクといった歴史上の女傑たちも、すべてその正体は魔法少女だったとして回想される。
キユウべえoff「祈りから始まり、呪いで終わるーーこれまで数多の魔法少女たちが繰り返してきたサイクルだ。ーー中には歴史に転機をもたらし、社会を新しいステージへと導いた子たちも大勢いた」
誰もが最初は理想と希望を胸に懐き、そして挫折し、最後にはグリーフシードと化して災厄をもたらす結末に至る。
あまりにも多すぎる悲劇の連鎖に、涙ぐみ、目を覆うまどか。
まどか「みんな...みんな信じてたの? 信じてたのに裏切られたの?」
キユウべえ「彼女たちを裏切ったのは、僕たちではなく、むしろ自分自身の祈りだよ」
まどかとは対照的に、まったく同情の素振リなど見せないキユウベえ。
キユウベえ「どんな希望も、それが条理にそぐわないものである限り、必ず何らかの歪みを生み出すことになる。やがてそこから災厄が生じるのは当然の摂理だ。そんな当たり前の結末を、裏切リだというのなら、そもそも願い事なんですること自体が間違いなのさ。ーーでも愚かとは言わないよ。彼女たちの犠牲によって、人の歴史が紡がれてきたこともまた事実だし」
やがてキユウべえの幻覚は終わり、まどかは元いた自分の部屋に戻される。
キユウベえ「そうやって過去に流されたすべての涙を礎にして、今の君たちの暮らしは成り立っているんだよ」
まどか「...」
キユウベえ「それを正しく認識するなら、どうして今さら、たかだか数人の運命だけを特別視できるんだい?」
まどか「...ずっと、あの子たちを見守りながら、あなたは何も感じなかったの?みんながどんなに辛かったか、分かってあげようとしなかったの?」
キユウベえ「それが僕たちに理解できたなら、わざわざこんな星にまで来なくても済んだんだけどね」
肩を竦めるキユウベえ。
キユウベえ「僕たちの文明では、感情という現象は極めて希な精神疾患でしかなかった。だから君たち人類を発見したときは驚いたよ。すべての個体が別個に感情を持ちながら共存している世界なんて、想像だにしなかったからね」
まどか「もしも...あなたたちがこの星に来てなかったら...」
キユウべえ「君たちは今でも裸で洞穴に住んでたんじゃないかな」

Open-air Odon Shop

Open-air Oden Shop 露天のおでん屋
人気のないガード下。おでんの屋台で飲んでいる和子と詢子。
詢子「やっぱね...教え子とこういう別れ方つてのは、辛いわよ」
詢子「...だよな」
和子「事情がはっきりしないつてのが、またね...三年生にも一人、行方不明の子がいるし、職員会議はしっちゃかめっちゃかよ」
詢子「何も分からないのか?やっぱり」
和子「さやかちゃんね、友達と、恋愛絡みでちょっと色々あったらしいの。その子もかなりダメージ背負っちゃってね...普通なら甘酸っぱい想い出で済むとこなんだけど、こういう結末になっちゃうとねえ...」
詢子「...」
和子「警察は、家出の挙げ句に衰弱死、って線で決着つけちゃうみたい。手がかり、何にもないしね。...まどかちゃんは、どう?」
詢子「わかんねえ」
和子「...」
意外そうに詢子を見つめる和子。
詢子「あたしの勘じゃあ、何か知ってる様子ではあるんだ。でも、嘘をついてるようにも見えねえ。...初めてなんだよ。あいつの本音を見抜けないなんて。情けねえよな。自分の娘だってのに」
和子「詢子が弱音を吐くなんてねえ...」
詢子「近頃、ちょっと妙だなとは思ってたんだ。なんか一人で背負い込んでるなって察してはいたんだけど。いつまで経つでもあたしに相談してこねえ...ちったあ頼りにされてると思ってたのにさあ」
和子「あの年頃の子供はね、ある日いきなり大人になっちゃったりするもんよ。親にとってはショックだろうけど」
詢子「そういうもんか...」
和子「信じてあげるしかないわ。今まどかちゃんに必要なのは、気持ちを整理する時間だろうから。しばらくは待ってあげないと」
詢子「...何も出来ねえのって、キツイな」
和子「そういうところで要領悪いの、相変わらずよねえ。詢子は」

Homura Apartment - Entrance

Homura Apartment - Entrance ほむらのアパート前
ほむらの住所であるボロアパートの前に玄つまどか。
そのあまりのオンボロぶりに気圧されるものの、意を決し、ほむらの部屋をノックする。
扉を開けるほむら。来訪者がまどかだと分かり、憮然と黙り込む。
まどか「...入っていいかな?」
ほむら「...」
不機嫌な面持ちのまま、まどかを中に通すほむら。

Homura Room

Homura Room ほむらの部屋
作戦本部の様相を呈した室内に、圧倒されるまどか。だがその意味するところを察しているだけに、驚きや疑問は見せない。
まどか「これが...ワルプルギスの夜?」
ほむら「...」
苦々しい沈黙で、返答を拒むほむら。
まどか「杏子ちゃんが言ってた。一人で倒せないほど強い魔女をやっつけるために、ほむらちゃんと二人で戦うんだって。...ずっとここで、準備してたのね」
卓袱台の上の地図に見入り、その意味を読み取ろうとするまどか。
まどか「...街中が、危ないの?」
ほむらも観念し、気乗りしないながらも説明を返す。
ほむら「今までの魔女と違って、こいつは結界に隠れて身を守る必要なんてない。ただ一度具現しただけでも何千人という人が犠牲になるわ。...相変わらず普通の人には見えないから、被告は地震とか、竜巻とか、そういった大災害として誤解されるだけ」
まどか「なら、絶対にやっつけなきゃ駄目だよね」
ほむら「...」
静かな決意を秘めたまどかの言葉に、目を逸らして沈黙するほむら。
まどか「杏子ちゃんも死んじゃって、戦える魔法少女はもう、ほむらちゃん一人だけしか残つてない。だったらーー」
ほむら「一人で充分よ」
まどかに皆まで言わさず、きっぱりと言い切るほむら。
ほむら「佐倉杏子には無理でも、私なら一人でワルプルギスの夜を撃退できる。杏子の援護も、本当は必要なかったの。ただ彼女の顔を立ててあげただけ」
まどか「...本当に?」
ほむら「...」
答えないほむら。その頑なな横顔を見守るうちに、まどかの目に涙が浮かぶ。
まどか「何でだろう...わたし、ほむらちゃんのこと信じたいのに...ウソツキだなんて、思いたくないのに...」
ほむら「...」
悲しみを堪えながら語るまどかを前にして、ほむらも、必死に感情を抑え込む。
まどか「全然、大丈夫だって気持ちになれない。ほむらちゃんの言ってることが本当だって思えない...」
ただ一途にほむらの身を案じるまどかを、拒み続けなければならない苦悩。ほむらはそれを堪えきれず、言葉は徐々に悲しみに震えはじめる。
ほむら「...本当の気持ちなんて、伝えられるわけないのよ」
まどか「ほむらちゃん...」
ほむら「だってーー私は、まどかとは、違う時間を生きてるんだもの」
感械まり、まどかを抱きしめるほむら。驚きに身を強張せるまどか。
まどか「ーーツ!?」

Part B

Homura Room

Homura Room ほむらの部屋
【Aパート】より続き。
ほむらに硬く抱きしめられているまどか。
ほむら「...私ね、未来から来たんだよ」
告白とともに、ほむらの瞳から涙が溢れ出る。
ほむら「何度も何度も、まどかと出会って、それと同じ回数だけ、あなたが死ぬところを見てきたの。...どうすればあなたが助かるか...どうすれば運命を変えられるのか...その答えだけを探して、何度も始めからやり直して...」
まどか「それって...ええと...」
途方に暮れ、身じろぎしようとするまどかだが、ほむらにより一層強く抱きしめられる。
ほむら「ごめんね...わけ分かんないよね...気持ち悪いよね...まどかにとっての私は、出会ってからまだ一ケ月も経つてない転校生でしかないものね...」
まどか「...?」
ほむら「だけど私は...私にとっての、あなたは...」
ほむらの脳裏を過ぎる過去のループの記憶。
(十話【AパートP.134】、初めて魔女に襲われたほむらをまどかが助けに来たシーン)
(十話【AパートP.137】、ほむらが魔法少女になって初めての戦いのシーン)
(十話【BパートP.141】、ワルプルギス戦の後に、たった一つ残ったグリーフシードをまどかから譲られるシーン)
ほむら「...繰り返せば繰り返すほど、あなたと私が過ごした時間はずれていく。気持ちもずれて、言葉も通じなくなっていく。...たぶん私は、もうとっくに迷子になっちゃってたんだと思う」
まどか「ほむらちゃん...」
まどかは全てを理解しきれないものの、それでもほむらの苦悩の深さだけは感じ取る。いたたまれなさに、彼女もまた胸が苦しくなる。
ほむら「...あなたを救う」
泣くだけ泣いた後で、決意を込めて、そう宣言するほむら。
ほむら「...それが私の最初の気持ち...今となっては、たったひとつだけ最後に残った、道しるべ」
抱きしめていたまどかから身を離し、その両肩を掴んだまま、ほむらは言い含めるように語る。
ほむら「分からなくていい。何も伝わらなくてもいい。それでもどうかーーお願いだから。あなたを私に守らせて」
まどか「...」
もはや嫌とは言いきれず、ただ小さく頷くしかないまどか。

Mitakihara City Overview

Mitakihara City Overview 見滝原市全域
翌日、黎明。不吉なまでの沈黙。誰一人いない街路を、一陣の風が吹き抜ける。
裏路地、工事現場、廃城...これまで魔法少女と魔女たちの戦いの舞台となってきた各所に、続々と旋風が巻き起こり、唸リを上げる。まるで怨念の声のように。

Weather Station - Radar Room

Weather Station - Radar Room 気象台、レーダー観測室
レーダー画面を凝視しながら、血相を変えて電話をかけている観測員。
観測員 「雷雲がとんでもない勢いで分裂と回転を起こしてます。明らかにスーパーセルの前兆です。直ちに避難指示の発令を!」

Residential Street

Residential Street 住宅街
既に猛烈な風雨に晒されつつある住宅街。
市役所の広報車が、拡声器で避難指示を流している。
広報車「本日午前7時、突発的異常気象に伴う避難指示が発令されました。付近にお住まいの皆様は、速やかに最寄りの避難場所への移動をお願いします。こちらは、見滝原市役所広報車です。本日午前7時ーー」

Dry Riverbed Ground

Dry Riverbed Ground 河川敷グラウンド
吹き荒れる嵐の中、静かに戦いの時を待つほむら。
ほむら「...米る」

School - Gym

School - Gym 学校の体育館
周囲から避難してきた住民が、家族ごとに身を寄せ合い、不安げにざわめいている。その中には鹿目家の一同の姿もある。
タツヤ「きょーは、おとまり? きやーんぷ、なん?」
知久「ああ、そうだよ。今夜はみんなで一緒にキャンプだ」
はしゃぐタツヤを余所に、災害の正体を知るまどかは気が気ではない。
まどか「ほむらちゃん...」

Dry Riverbed

Dry Riverbed Ground 河川敷グラウンド
雷鳴と突風。逆巻く風が竜巻となり、グラウンドに立ち上がる。
常人には竜巻としか見えないその山中に、ゆっくりと姿を現す巨大な怪物の影。ワルプルギスの夜である。
ほむら、魔法少女へと変身。
完全に実体化したワルプルギスの夜が咆吼しようとしたその瞬間、時間静化魔術が発動。
ほむら「今度こそーー」
静止した時間の中、射撃状態の72ロケットランチャーを肩に担ぎ、硬直したワルプルギスへと照準をつけるほむら。
ほむら「ーー決治を、つけてやる!」
ロケットランチャー発射。と同時に時間再生。直撃をくらい悲鳴を上げるワルプルギス。
即座にほむらは再度時間を停止させ、走ってワルプルギスの右側へと迂回しながら、使用済みのランチャーを投げ捨て、盾裏から取り出した新たなM72のピンを抜き伸長。射撃態勢に。
再び肩に担いでから発射し、時間を再生。ワルプルギスにしてみれば予想外の方向から間髪入れず第二射をくらったようなもので、避けようもなく直撃。
さらにワルプルギスの背後、そして左側から、第3、第4のロケット弾が忽然と出現し、その巨体に直撃する。
たまらず絶叫するワルプルギス。
ワルプルギス「ガアアアアッ!」
苦しみ悶えている隙に、またも時間が停止する。
ほむら、今度はワルプルギスのすぐ足元の土手に、せっせとクレイモア地雷を設置しはじめる。雛境のように何列もずらりと整列する地雷。20個ほど設置したところでほむらは土手を駆け上がり、斜面の反対側に飛び込みながら時間を再生。同時に地雷の起爆スイッチを押す。
炸裂した地雷から総計1万4千個もの鉄球が撒き散らされ、ワルプルギスの足元からん全身を襲う。これまた避けられるはずもなく、絶叫し、よろめくワルプルギス。
ワルプルギス「ギアアアアアッ!」
痛みのあまり足元がおぼつかなくなり、すぐ側にあった鉄橋の上へと倒れそうになるワルプルギス。その巨体が橋を押し潰す寸前に、またしても時間静止。
空中で止まった雨の帳を突き破り、土手の上の舗装路を疾走してくる一台のタンクローリー。運転席でハンドルを握るのはほむらである。
タンクローリーは強引な急カーブで鉄橋へと乗り入れる。無茶なハンドリングで片輪が浮くがほむらは意に介さず。傾いたまま鉄橋を疾走するタンクローリー。バランスは回復せず、ついにタンクローリーは横転し、そのまま橋の上を滑走する。
上向きになった運転席のドアを蹴り破リ、身を乗り出すほむら。滑走する車上から橋へと飛び降りる。ほむらの足が離れた途端に、タンクローリーの時間も停止してその場に硬直する。
ほむらは宙を舞いながら、さらに発煙筒を点火。タンクローリーが滑っていく先へと投げつける。手から離れた瞬間に発煙筒も空中で静止。
傾いたワルプルギスの身体の真下を通り、鉄僑を駆け抜けるほむら。河の対岸までたどり於いたところで、時間を再生。
倒れかかるワルプルギスの真下へと、横倒しのまま滑走していくタンクローリー。車体は鉄橋もろとも巨大魔女の身体に押し潰され、破裂した内容物が、路面に転がっていた発煙筒の炎に触れる。
大爆発。猛烈な炎が巨大魔女を包み込む。
土手の陰に隠れて、爆風と破片をやり過ごしたほむら。
立ち上がり、濛々たる黒煙に覆われた河川敷を見つめる。
ほむら「...ゃったか?」
成果を見届け、期待しかかったほむらめがけて、黒煙の奥から躍リ出るワルプルギスの尻尾。
薙ぎ払われた尻尾の一撃をもろにくらって、宙高く吹き飛ばされるほむら。
ほむら「ぐ...は...ツ」
喀血しながら、増水した川へと落ちていくほむら。
学校の体育館
遠く離れた河川敷でのタンクローリー爆発の衝撃が、かすかな地響きとなって伝わってくる。
地震か、とどよめく避難者たち。ただ独り、まどかだけが、それがほむらの戦っている証だと理解して歯噛みする。
いてもたつでもいられなくなり、立ち上がるまどか。
詢子「...ん?どした?」
まどか「ちょ、ちょっと。トイレ」

Gym - Corridor

Gym - Corridor 体育館前の渡り廊下
外の豪雨を眺めるまどか。その傍らにはキユウべえ。
まどか「...ほむらちゃんが、独りでも勝てるっていうのは、本当?」
キユウべえ「それを否定したとして、君は僕の言葉を信じるかい?」
まどか「...」
キユウベえ「今さら言葉にして説くまでもない。その目で見届けてあげるといい。ワルプルギスの夜を前にして、暁美ほむらがどこまでやれるか」
まどか「どうして...そうまでして戦うの?」
キユウベえ「彼女がまだ希望を求めているからさ」
呆れ半分、嘲リ半分に、さも滑稽そうに語るインキユベーター。
キユウベえ「いざとなればこの時間軸もまた無為にして、ほむらは戦い続けるだろう。何度でも性懲りもなく、この無意味な連鎖を繰り返すんだろうね。もはや今の彼女にとって、立ち止まることと諦めることは同義だ」
まどか「...」
まどか、昨夜のほむらが見せた痛切な涙を思い出す。
キユウベえ「何もかもが無駄だったと、決してまどかの運命を変えられないと確信したその瞬間に、暁美ほむらは絶望に負けて、グリーフシードへと変わるだろう。彼女自身にも分かってるんだ。だから選択肢なんてない。勝ち目のあるなしに関わらず、ほむらは戦うしかないんだよ」
まどか「...希望を持つ限り、救われないっていうの?」
キユウベえ「そうさ。過去のすべての魔法少女たちと同じだよ。まどか、君だって一緒に見ただろう?」
まどか「...ツ」
肩を震わせて泣くまどか。だがその涙は悲しみでなく、決意と信念の涙である。
踵を返し、校門へ向かおうとするまどか。
その肩を、背後から詢子が掴む。はっとして振り向くまどか。
詢子「どこに行こうってんだ、おい?」
まどか「...ママ」
母親の怒りの表情に気後れしつつも、だがまどかの決意は揺るがない。
まどか「わたし...友達を、助けに行かないと」
詢子「消防署に任せろ。素人が動くな」
まどか「わたしでなきゃ駄目なの」
詢子、まどかに平手打ちを見舞う。だがそれでもまどかは怯まない。
詢子「テメエ独りのための命じゃねえんだ!あのな、そういう勝手をやらかして、周りがどれだけ心配するとーー」
まどか「分かってるよ。わたしにも、よく分かる」
詢子「...ツ」
落ち着いたまどかの返事に、怒りながらも二の句が継げなくなる詢子。
まどか「わたしだって、ママのこと、パパのこと、大好きだから。どんなに大切にしてもらってるか知ってるから。自分を粗末にしちゃいけないの、分かる。だから逃うの。みんな大事で、絶対に守らなきゃいけないからーーーそのためにも、わたし、今すぐ行かなきゃいけない所があるの」
詢子「...理由は説明できねえってのか?」
こくり、と頷くまどか。
詢子「なら、あたしも連れて行け」
まどか「駄目。ママはパパとタツヤの側にいて。二人を安心させてあげて」
あくまで冷静なまどかに対し、信用していいのかどうか、ますます葛藤する詢子。そんな母の目をまっすぐに見て、まどかは続ける。
まどか「...ママはさ、わたしが良い子に育ったって、言ってくれたよね。嘘もつかない、悪い事もしないって。...今でもそう信じてくれる? わたしを正しいと思ってくれる?」
詢子は悩み抜いた挙げ句に、今は娘を案じるよりも信用するしかないと判断する。
詢子「...絶対に下手打ったりしないな? 誰かの嘘に踊らされてねえな?」
まどか「つん」
詢子は苦々しい顔で、まどかの肩から手を放し、やや荒っぽくその背中を押す。
まどか「...ありがとう。ママ」
雨の中へと駆け去っていくまどか。その背中を、痛切な面持ちで見守る詢子。

Residential District

Residential District 住宅地
依然、健伐のワルプルギス。無人となった家屋を蹴散らしながら、市街地を目指す。
その後を、必死に追いかけるほむら。既に満身創痍で呼吸も荒い。
ほむら「これ以上先に進まれたら、避難所を襲われる...どうにかして、ここで食い止めないと...」
ワルプルギス「ガアアアアツ!」
ほむらの気配を察して、振り向きざまに傍らのマンションを前肢で叩き壊すワルプルギス。
ほむら「ッ!?」
咄嗟に時間を静止させ、逃げようとするほむらーーだが、魔法は発動しない。盾の砂時計は既に空になっている。
ほむら「そんな!?」
逃げ切れず、建物の倒壊に巻き込まれるほむら。
粉塵が舞い上がる中、ワルプルギスはほむらの姿を見失い、次なる獲物を探して歩き始める。
ほむら「く...」
辛くも圧死を免れたほむら。必死に身を捩り、瓦礫の下から這い出ょうとするが、片足が挟まって動けない。
遠ざかるワルプルギスの背中を、絶望的な思いで見守るほむら。
ほむら「どうして...どうしてなの...何度やっても...あいつに勝てない...ッ!」
砂時計を反転させ、時間を逆行させようとするほむら。だが直前で躊躇する。
ほむらM 『繰り返せば...それだけまどかの因果が増える...私がやってきたことは、結局...!』
悔しさのあまり鳴咽するほむら。そのソウルジエムも、絶望でじわじわと黒ずんでいく。
だが、投げ出されたほむらの手を、誰かが握りしめる。
その場に駆けつけたまどかである。
ほむら「ーーッ!」
まどか「もういい...もういいんだよ。ほむらちゃん」
ほむら「まどか...」
まどか、立ち上がって、避難所を目指すワルプルギスの背中を見つめる。その決意の眼差しに、まどかの意図を悟るほむら。
まどかの足元には、いつの間にか現れたインキュベーターが寄り添っている。
ほむら「まどか、まさか...」
動揺するほむらに、優しくも悲しげに微笑みかけるまどか。
まどか「ほむらちゃんーーごめんね」