The Beginning Story: Episode 3: Difference between revisions

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さやか「うん、いざとなったら頼むかも。...でも、今はやめとく。マミさんを待つよ」
さやか「うん、いざとなったら頼むかも。...でも、今はやめとく。マミさんを待つよ」
弱気になりそうな自分を奮い立たせようと、深呼吸するさやか。
弱気になりそうな自分を奮い立たせようと、深呼吸するさやか。
さやか「あたしにとっても、大事なことだから。...できる
さやか「あたしにとっても、大事なことだから。...できる』となら、いい加減な気持ちで決めたくない」
 
口病院袋の駐輪場
マミを連れて再び戻ってくるまどか。
マミ「ここね...」
マミ、魔力で結界の入口を開く。二人の前に晒される異界の迷路。マミはキユウべえにテレパシーで呼びかける。
マミ『キユウべえ、状況は?」
キユウベえ『まだ大丈夫。すぐに孵化する様子はないよ』
まどか『さやかちゃん、大丈夫?』
さやか『へーきへーき。退屈で居眠りしちゃいそう』
キユウベえ『むしろ迂闊に大きな魔力を使って卵を刺激する方がまずい。急がなくていいから、なるべく静かに米てくれるかい?』
マミ『わかったわ」
マミ、変身することなく結界の中へと踏み込む。後に続くまどか。
まどか「間に合って良かった...」
マミ「無茶しすぎ、って怒りたいところだけれど。今回に限つては冴えた手だったわ。これなら魔女を取り逃がす心配はーー」
言いかけて立ち止まり、振り向くマミ。まどかもまた背後を見て息を呑む。
二人の後から、ほむらが結界に踏み込んでくる。
マミ「...言ったはずよね。二度と会いたくないって」
ほむら「今回の獲物は私が狩る。あなたたちは手を退いて」
マミ「そうもいかないわ。美樹さんとキユウベえを迎えに行かないと」
ほむら「その二人の安全は保証するわ」
マミ「信用すると思って?」
マミ、予め床に仕掛けておいた魔力の網を発動。
不意を突かれ、網に捕らりわれて動けなくなるほむら。
ほむら「馬鹿ッ...こんなことやってる場合じゃ!」
マミ「もちろん怪我させるつもりはないけど、あんまり暴れたら保証しかねるわ」
忠行をよそに抵抗するほむら。だが魔力の拘束はますます固く彼女を締め上げる。
ほむら「今度の魔女は、これまでの奴らとはワケが違う!」
マミ「大人しくしていれば、帰りにちゃんと解放してあげる。ーー行きましょう、鹿目さん」
まどか「は、はい...」
ほむら「待て...ぐッ!」
ますますマミの魔力が絞まり、声も出せなくなるほむら。
まどかはその様子を心配げに眺めつつ、マミに促されるままついていく。
 
口結界迷路の途中
迷路を徘徊する使い魔たちの背後を、そっと忍び足で通り抜けるマミとまどか。
何となく沈黙が重くて、マミに声をかけるまどか。
まどか「おの...マミさん?」
マミ「なに?」
まどか「願い事、私なりに、色々と考えてみたんですけど...」
マミ「決まりそうなの?」
まどか「はい。でも、あの、もしかしたらマミさんには、考え方が甘いって、怒られそうで...」
マミ「どんな夢を叶えるつもり?」
まどか、自分なりに思考を整理しようと努めつつ、たどたどしく語りはじめる。
まどか「私って、昔から、得意な学科とか、人に自慢できる才能とか、何にもなくて...きっとこれから先ずっと、誰の役にも立てないまま、迷惑ばかりかけていくのかなって...それが嫌でしょうがなかったんです」
マミ「...」
まどか「でも、マミさんと会って...誰かを助けるために戦ってるの、見せてもらって...同じことが、私にもできるかもしれないって言われて...何よりも嬉しかったのは、そのことで...」
黙って聞いているマミに、勇気を出して告白するまどか。
まどか「だから私、魔法少女になれたなら、それで願い事は叶っちゃうんです。こんな自分でも、誰かの役に立てるんだって、胸を張って生きていけたら...それが一番の夢だから...」
先を行くマミは、振り向くことなく問い返す。
マミ「...大変だよ? 怪我もするし、恋したり遊んだりしてる暇もなくなっちゃうよ?」
まどか「でも、それでも頑張ってるマミさんに...私、憧れてるんです」
立ち止まるマミ。
マミ「憧れるほどのもんじゃないわよ。私」
まどか「...?」
マミの背中を見守るまどか。その肩が震えているのに気付く。
マミ「無理してカッコつけてるだけで、恐くても、辛くても、誰にも相談できないし、独りぼっちで泣いてばっかり。いいものじゃないわよ。魔法少女なんて」
まどか「マミさんはもう独りぼっちなんかじゃないです」
マミ「そうね、そうなんだよね」
振リ向いて、まどかの手を握るマミ。その日に光る涙を見て、やや驚くまどか。
マミ「本当に、これから...私と一緒に、戦ってくれるの?側にいてくれるの?」
擦れた声で問、つマミに、やや気後れしつつ、それでもきっぱりと頷くまどか。
まどか「はい。...私なんかで、良かったら」
マミは涙を堪えようとして、無理に照れ笑いを浮かべようとする。
マミ「まいったなあ...まだまだちゃんと先輩ぶってなきゃいけないのになあ...やっぱり私、駄目な子だ...」
まどか「マミさん...」
ようやく涙を引っ込めて、笑うマミ。
マミ「...でもさ、折角なんだし、願い事は何か考えておきなよ」
まどか「折角ーーですかね、やっぱり」
冗談めかしたマミの声に、釣られて笑うまどか。
マミ「契約は契約なんだから、ものはついでと思っておこうよ。億万長者とか、素敵な彼氏とか、何だっていいじゃない」
まどか「いやあ、その...」
マミ「じゃあ、こうしましょ。この魔女をやっつけるまでに願い事が決まらなかったら、そのときはキユウベえに、ごちそうとケーキを頼みましょ」
まどか「け、ヶーキ?」
マミ「そう、最高におつきくて贅沢な、お祝いのケーキ。それでみんなでパーティーするの。私と鹿目さんの、魔法少女コンビ結成記念よ」
まどか「ゎ、私、ヶーキで魔法少女に?」
マミ「嫌なら、ちゃんと自分で考える!」
まどか「ふええ...」
 
口結界最深部
さやかとキユウべえが見守る眼前で、やおら変形しはじめるグリーフシード。そのおぞましさに息を呑むさやか。
キユウべえ「マミ! グリーフシードが動き始めた!孵化が始まるーー急いで!」
 
口結界迷路の途中
キユウべえからのテレパシーを受けて、頷くマミ。
マミ「オツケー、わかったわ。今日という今日は速攻で片付けるわよ!」
まどか「わわ、そんなーー」
魔力を抑える理由のなくなったマミは、魔法少女スタイルに変身。
まどかの手を引いて、疾風のように結界の迷路を駆け抜ける。
今更ながらマミたちの存在に気付く使い魔たちだが、勢いづいたマミの魔力で片っ端から吹き飛ばされていく。
マミM 『身体が軽いーーこんな幸せな気持ちで戦うなんて
 
初めて』
切迫した状況にも拘わらず、微笑みを浮かべているマミ。
その笑みに勇気づけられたまどかも、マミの視線に微笑を返す。
マミM 『もう何も恐くない。私ーー独りぼっちじゃないもの!』
 
口結界最深部
孵化中眼前のグリーフシードから後退るさやかとキユウベえの前に、使い魔たちを蹴散らしながら駆け込んでくるマミとまどか。
マミ「お待たせ!」
さやか「ふう...間に合ったあ」
キユウべえ「気を令けてーー出てくるよ!」
グリーフシード、孵化。現れ出る異形の魔女。
だがマミはまどかたちを庇いつつ、いつにない気迫で身構える。
マミ「せっかくのとこ悪いけど、一気に決めさせてもらうわよ!」
マミ、魔力の投網を発動。先手を打たれていきなり縛り上げられる魔女。
そのままマミは魔銃を魔砲へと変形させ、発射態勢に。
さやか「ゃったーー」
 
だが今回の魔女は身体が伸縮自在な構造だった。いきなり伸び上がった首から先が、ちょうどマミの頭を丸呑みするほどに顎を拡げて、覆い被さってくる。
マミ「ーーえ?」
信じられない、といった表情で硬直するマミ。
恐怖に目を見開くまどかとさやか。
 
口結界入口付近
マミの緊縛魔術に縛られていたほむら。
だがふいにマミの魔力が消失し、拘束から解放される。
ほむら「まさか...ッ!」
痛恨の面持ちで舌打ちするほむら。
 
口結界最深部
糸が切れた人形のように倒れ伏すマミの身体。(実は頭が無くなっているのだがアングルで誤魔化す方向で)
その上に、自由になった魔女の巨体が覆い被さり、隠す。
肉と骨を附み砕き、呑み込む音。
まどかとさやかは恐怖のあまり固まって、目を逸らすことも、悲鳴を上げることもできない。
キユウベえ「二人ともーー今すぐ僕と契約を!」
叱陀するキユウベえ。聞こえていても反応できない二人。
キユウベえ「願い事を決めるんだ! 早く!」
マミの骸を食べ終えて、顔(?)を上げる魔女。その眼がまどかとさやかを見据える。
まどか「あ...」
死を覚悟する二人。
キユウベえ「まどか! さやか!」
ほむら「ーーその必要はないわ」
掠み上がった二人を背に庇って、魔女の前に立ちはだかるほむら。
ほむら「こいつを仕留めるのは、私ーー」
ほむら、変身シークェンス。魔法少女スタイルに。
予想だにしなかった救援に、呆然となるまどかとさやか。
魔女はマミのときと同様に、一瞬で伸縮する身体でほむらを捕らえようとする。
だがほむらは瞬間移動したかのように別の位置に。代わりに魔女が捕まえたのは起爆寸前の爆弾である。触手を吹き飛ばされ、絶叫する魔女。
ほむらは次々と瞬間移動を繰り返し、そのたびに次から次へと出現する置き土産の罠にひっかかり、一方的に翻弄される魔女。(ほむらは得意の時間静止魔術を駆使しているのだが、見守っているまどかやさやかには理解できない)
華麗だったマミの戦闘スタイルとに違い、冷附かつ無駄のない戦略。全く違う次元の魔法戦闘を見せつけられるまどか。
ほむら「...ふん」
最後に何事もなかったかのように鼻を鳴らして、いきなり変身を解除するほむら。まどかたちの方に向き直る。
ほむら「命拾いしたわね、あなたたち」
さやか「なーー」
ここぞとばかりに襲いかかる魔女。だがその周囲は、既に必殺の罠で完全に包囲されている。
背を向けたほむらの背後で、とどめを刺され、絶叫とともに出消滅する魔女。
ほむら「目に焼きつけておきなさい。魔法少女になるって、そういうことよ」
半泣きになりながら、地面の一画(マミの死体がある辺り)を見つめているまどかとさやか。
魔女が消滅したことで、結界もまた消えていく。周囲は再び、もとの駐輪場の光景に。
後に残されたグリーフシードを、ほむらが拾い上げる。
それを見て、遣り場のない怒りに駆られるさやか。
さやか「...返してよ」
ほむら「...」
無言で見つめ返すほむらに、掴みかかるさやか。
さやか「返せよッ!それはーーそれはマミさんのものだ!」
逆上するさやかを振り払い、そのまま冷ややかな眼差しで見下ろすほむら。
ほむら「そうよ。これは魔法少女のためのもの。ーーあなたたちには触る資格なんて、ない」
言い放ち、そのまま去っていくほむら。
後には泣き崩れるさやかと、虚ろな目で立ち尽くすまどかが取り残される。
そしてキユウべえは、絶望する二人ではなく、去っていくほむらの背中を、何やら物思いに耽りながら見送る。

Revision as of 16:34, 18 January 2013

Part A

口恭介の病室 ベッドをリクライニングさせて座っている恭介と、介添川の椅子に腰掛けているさやか。 さやか「はい、これ」 見舞いに来たさやかから、ヴァイオリンのCDを手渡される恭介。驚きに日を見聞く。 恭介「うわ、凄い...これネットでも手に入らない廃盤だよ!」 さやか「そ、そうなんだ...たまたま寄ったお店で見かけたんで、買ってみたんだけど」 ベッドサイドのテーブルには、他にもCDのケースが積み上げられている。すべてさやかが買ってきたものである。 恭介「いつも、本当にありがとう。さやかはレアなCDを見つける天才だね」 さやか「はは、そんな...う、運がいいだけだよ。きっと」 照れてはにかむさやか。 恭介はさっそくケースを開けて、CDをポータブルプ レーャーにセットする。 恭介「この人の演奏は、本当に凄いんだ。さやかも聴いてみる?」 ヘッドホンの片方だけを嵌めて、もう一方をさやかに差し山す恭介。 さやか「ぃ、いいのかな...」 恭介「本当はスピーカーで聴かせたいんだけど、病院だしね」 コードの長さの都合で、やや身を寄せ合う姿勢になる二人。内心で照れまくるさやか。 だが山曲が始まると、優しい旋律に心が利まされる。 優しい旋律に浸るさやか。 x x x さやか幼少期の記憶。 ヴァイオリンの発表会で楓爽と演奏をしている恭介と、その姿に目を奪われているさやか。 × x x ふと目を開けるさやか。隣で恭介が静かに泣いているのに気付く。 ベッドの上で力なく投げ出された恭介の左腕。無惨な手術跡。もう二度と演奏のできなくなった指が、演奏の記憶を辿って震えている。 やるせない惣いに、胸が痛くなるきゃか。

口夜の公園(異界化中) 魔砲からアルティマシュートを放つマミ。 直撃をくらい、悲鳴を上げて消滅していく使い魔。 それを固唾を呑んで見守るまどかとさやか。 結界は解かれ、周囲はもとの公園の景色に戻る。マミも変身を解除。ほっと安堵するギャラリー二人。 さやか「やっぱマミさんつてカツコいいね~」 マミ「もう。見せ物じゃないのよ。危ないことしてる、って意識は忘れないでおいてほしいわ」 さやか「いえーす」 手にした護身用パットを掲げ上げるさやか。 まどか「グリーフシード、落とさなかったね」 キユウべえ「今のは魔女から分裂した使い魔でしかないからね。グリーフシードは持つてないよ」 まどか「魔女じゃなかったんだ...」 さやか「なんか、ここんとこずっとハズレだよねえ」 マミ「使い魔だって放っておけないのよ。成長すれば分裂元と同じ魔女になるから。ーーさ、行きましょ」 × × × 静寂を取り戻した夜の公園を、並んで歩くマミ、さやか、まどかとキユウベえ。 マミ「二人とも、何か願い事は見つかった?」 さやか「う~ん、まどかは?」 まどか「う~ん...」 困リ果てる二人に、苦笑するマミ。 マミ「まあ、そういうものよね。いざ考えろって言われたら」 まどか「マミさんは、どんな願い事をしたんですか?」 まどかが訊いた途端、マミの表情が陰る。やや慌てるまどか。 まどか「いや、あの、どうしても聞きたいってわけじゃなくて、ちょっと気になった、っていうか、その...」 マミ「ううん、いいの。別に隠すほどのことでもないし」 遠い眼差しで追憶するマミ。 マミ「私の場合はーー」 x x × マミの回想。高速道路での大規模な事故。 潰れた車に閉じ込められて瀕死のマミが、手を差し伸べたその先に、キユウベえの姿がある。 マミoff「ーー考えている余裕さえ、なかったってだけ」 × x × 再び現代。夜の公園。マミが語った過去に、ややショックを受けている二人。 マミ「ーー後悔してるわけじゃないのよ。今の生き方も、あそこで死んじゃうよりは余程良かったと思ってる」 マミ「でもね、ちゃんと選択の余地がある子には、きちんと考えた上で決めてほしいの。私にできなかったことだからこそ、ね」 意を決して、質問をぶつける気になるさやか。 さやか「ねえ、マくさん...願い事つて、自分のための事柄でなきや駄目なのかな?」 マミ「ぇ?」 さやか「たとえばーーたとえばの話なんだけどさ。あたしなんかより、よほど困ってる人がいて、その人のために願い事をするのはーー」 まどか「それって...上条くんのこと?」 さやか「た、例え話だって言ってるじゃんか!」 慌てるさやかを余所に、冷静に頷くキユウベえ。 キユウベえ「べつに契約者自身が願い事の対象になる必然性はないんだけどね。前例もないわけじゃないし」 マミ「...でも、あまり感心できた話じゃないわ」 やや険しい声で異論を挿むマミ。 マミ「他の人の願いを叶えるのなら、なおのことれ分の望みをはっきりさせておかないと。ーー美樹さん、あなたは彼に夢を叶えてほしいの?それとも彼の夢を叶えた恩人になりたいの?」 さやか「...」 マミの言い様に、さすがに憮然と押し黙るさやか。狼狽えるまどか。 まどか「マミさんーー」 マミ「同じようでも全然違うことよ。これ」 さやか「...その言い方は、ちょっと酷いと思う」 マミ「ごめんね。でも今のうちに言っておかないと。そこを履き違えたまま先に進んだら、あなた、きっと後悔するから」 さやか「...」 さやか、しばし押し黙って考え込んでから、深呼吸し、領く。 さやか「...そうだね。あたしの考えが甘かった。ごめん」 きっぱりと謝罪するさやかに、安堵するまどか。マミも笑顔を返す。 マミ「やっぱり、難しい事柄よね。焦って決めるべきじゃないわ」 キユウベえ「僕としては、早ければ早いほどいいんだけど」 ぼやくキユウべえの頭を小突くマミ。 マミ「駄目ょ。女の子を急かす男は嫌われるぞ」 笑うマミとさやか。まどかも釣られて笑うものの、その胸の内はやや複雑。

口まどかの部屋 就寝間際、パジャマに着替えてベッドの上でごろごろしているまどか。傍らにはキユウベえ。 公園でのさやかとマミの問答を思い出し、溜息をつくまどか。 まどか「...やっぱり、簡単なことじゃないんだよね...」 キュゥベえ「僕の立場で急かすわけにはいかないしね。助言するのもルール違反だし」 まどか「ただ、なりたいってだけじゃ、駄目なのかな...」 ノートの落書きの変身プランを眺めるまどか。華麗に戦うマミを思い出し、その姿に自分を重ねて妄想する。 キユウベえ「まどかは力そのものに憧れているのかい?」 まどか「ゃ、そんなんじゃなくて...う~ん、そうなのかな?私ってどんくさいし、何の取り柄もないし、だからマミさんみたいに格好良くて素敵な人になれたら、それだけでもう充分に幸せなんだけど...」 キユウベえ「まどかが魔法少女になれば、マミよりずっと強くなれるよ」 まどか「へ?」 思わぬ言葉に、狐につままれたかのようなまどか。 キユウベえ「もちろん、どんな願い事で契約をするかにもよるけれど...まどかが生み出すかもしれないソウルジエムの大きさは、僕にも測定しきれない。これだけの素質を持つ子と出会ったのは初めてだ」 まどか「はは...何言ってるのよ、もう。嘘でしょ」 キユウべえ「いやーー」 そこに扉をノックする音。 知久「まどか、起きてるか?」 まどか「うん?どしたの?」 知久「ママが帰ってきたんだが...ちょっと手伝ってくれないかな」

口鹿り一家玄関 上がり枢で、泥酔した詢子が潰れている。 まどか「あー、またか...まったくもう」 やや呆れ気味に苦笑いするまどか。 詢子「み、水...」 既に川意しであったコップの水を詢子に飲ませる知久。 知久「ともかくベッドまで運んで、着替えさせないと。ほら、そっち持ってくれ」 まどかと知久、二人がかりで詢子を肩に担いで、寝室まで引っ張っていく。 詢子「ぐえええ...このスダレハゲ...呑みたきゃ手酌でやってろっつ、つの...」 譫言のように愚痴を漏らす詢子。

口両親の寝室 布団にくるまり、安らかな寝息を立てている詢子。 一仕事終えた知久とまどか、ほっと一息。 知久「ココアでも入れようか?」 まどか「うん、お願い」

ロダイニングキヴチン 寝間着姿にガウンを羽織り、テーブルで差し向かいに座ってホットココアを啜る二人。 まどか「なんでママは、あんなに仕事が好きなのかな。昔からあの会社で働くのが夢だったーーなんて、ないよね?」 知久「ママは仕事が好きなんじゃなくて、頑張るのが好きなのさ」 まどか「...?」 知久「嫌なことも辛いこともいっぱいあるだろうけど、それを乗り越えたときの満足感が、ママにとっては最高の宝物なのさ。そういう意味で、今の難しくて大変な仕事は、とてもやり甲斐があるんだろうね」 まどか「ママは...満足なのかな、それで」 知久「そりゃ、会社勤めが夢だったわけじゃないだろうけどさ。それでもママは、理想と思っていた生き方を通してる。そんな風にして叶える夢もあるんだよ」 まどか「...生き方そのものを、夢にするの?」 知久「どう思うかは人それぞれだろうけどーー僕はね、ママのそういうところが大好きだ。尊敬できるし、自慢できる。素晴らしい人だってね」 まどか「...うん」 父の笑顔に、表情を和ませるまどか。

口夜道 まどか、さやかと別れて帰路を歩くマミ。ふと背後についてくる気配を感じ、足を止める。 街灯の光を避けるように、闇の中に佇んでいるほむら。 ほむら「分かっているの?あなたは無関係な一般人を危険に巻き込んでいる」 マミ「彼女たちはキユウベえに選ばれたのよ。もう無関係じゃないわ」 ほむら「あなたは二人を魔法少女に誘導している」 マミ「それが面白くないわけ?」 ほむら「ええ。迷感よ。...特に鹿目まどか」 マミ、ほむらの真意を見透かし(たと勘違いして)日を細める。 マミ「ふうん...そう、あなたも気付いてたのね、あの子の素質に」 ほむらの眼差しがさらに険しくなる。 ほむら「彼女だけは、契約させるわけにはいかない」 マミ「自分より強い相手は邪魔者ってわけ?いじめられつ子の発想ね」 内心でかっとなるほむらだが、一旦目を閉じて気持ちを静める。 ほむら「あなたとは戦いたくないのだけれど」 マミ「なら二度と会うことがないよう努力して」 ほむらの側にこの場で仕掛けてくる意図がないと判断したマミは、踵を返す。 マミ「話し合いだけで事が済むのは、きっと今夜で最後だろうから」 捨て台詞を残して去っていくマミ。ほむらは事態が思うように進まないことに苛立ち、歯噛みする。 ほむら「...」

口封院ロビー(翌日、放課後) 恭介が入院している病院。さやかの見舞いに付き添って来たまどかが、ペンチでさやかの戻リを待っている。隣にはキユウベえ。 そこで溜息をつきつつエレベーターから降りてくるさやか。 さやか「ょ、お待たせ」 まどか「あれ? ...上条くん、逢えなかったの?」 さやか「なんか今日は都合悪いみたいでさ。わざわざ来てやったのに、失礼しちゃうわよね~」

口病院・訴の駐輪場 連れ立つて、病院の中庭を横切るまどかとさやか。 ふと気になって、駐輪場の奥にある物置のスペースに目をやるまどか。 そこで何かが怪しく光っている。 まどか「...?」 さやか「ん? どしたの?」 まどか「あそこ、何か...」 胸騒ぎを感じて、近寄って調べる二人。 そこには、壁に突き刺さるようにして埋まっているグリーフシード。まるで呼吸するかのように光を脈動させている。 キユウベえ「グリーフシードだ...孵化しかかってる!」 まどか「嘘、なんでこんな所に...」 キユウベえ「まずいよ。早く逃げないと。この辺りはもうこいつの魔力に侵食されはじめてる。もうすぐ結界が出来上がる」 さやか「またあの迷路が...」 さやかの脳裏を、かつてマミから聞いた言葉が過ぎる。 x x x マミ「...それから、病院とかに取り憑かれると最悪よ。ただでさえ弱っている人たちから生命力が吸い上げられるから、日も当てられないことになる」 × × × これは断じて見過ごせないと、意を決するさやか。 さやか「まどか、先に行って。マミさんを呼んできて。あたしはこいつを見張ってる」 まどか「そんな!」 キユウベえ「無茶だよ。中の魔女が出てくるまでにはまだ時間があるけど、結界が閉じたら君は外に出られなくなる。マミの助けが間に合うかどうかーー」 さやか「あの迷路が出来上がったら、こいつの居所も分からなくなっちゃ、つんでしょ?」 さやかの脳裂を過ぎる、衰弱した恭介のイメージ。 さやか「放つておけないよ。こんな場所で...」 さやかの決意を察して、頷くキユウベえ。まどかの肩から降りる。 キユウベえ「まどか、先に行ってくれ。さやかには僕がついてる」 まどか「キユウべえ...」 キユウベえ「マミならテレパシーで僕の位置が解る。ここでさやかと一緒にグリーフシードを見張っていれば、最短距離で結界を抜けられるよう、マミを誘導できるから」 さやか「ありがとう。キユウベえ」 まどか「...あたし、すぐにマミさんを連れてくるから!」 走り去るまどか。さやかとキユウベえの周囲は徐々に異界化し、現実枇界と隔てられていく。 駐輪場を出る前に、振り返ってさやかたちがいた辺りを見るまどか。そこは既に不気味な静寂に包まれて、誰もいない。 x x x 病院の屋上に立っているほむら。 駐輪場から駆け出ていくまどかを、無言で見守っている。

Part B

口結界内部 脈動するグリーフシードを前にして、キユウベえを抱きかかえているさやか。 キユウベえ「恐いかい? さやか」 さやか「そりゃあまあ...当然でしょ」 キユウベえ「願い事さえ決めてくれれば、今この場で君を魔法少女にしてあげることもできるんだけど」 さやか「うん、いざとなったら頼むかも。...でも、今はやめとく。マミさんを待つよ」 弱気になりそうな自分を奮い立たせようと、深呼吸するさやか。 さやか「あたしにとっても、大事なことだから。...できる』となら、いい加減な気持ちで決めたくない」

口病院袋の駐輪場 マミを連れて再び戻ってくるまどか。 マミ「ここね...」 マミ、魔力で結界の入口を開く。二人の前に晒される異界の迷路。マミはキユウべえにテレパシーで呼びかける。 マミ『キユウべえ、状況は?」 キユウベえ『まだ大丈夫。すぐに孵化する様子はないよ』 まどか『さやかちゃん、大丈夫?』 さやか『へーきへーき。退屈で居眠りしちゃいそう』 キユウベえ『むしろ迂闊に大きな魔力を使って卵を刺激する方がまずい。急がなくていいから、なるべく静かに米てくれるかい?』 マミ『わかったわ」 マミ、変身することなく結界の中へと踏み込む。後に続くまどか。 まどか「間に合って良かった...」 マミ「無茶しすぎ、って怒りたいところだけれど。今回に限つては冴えた手だったわ。これなら魔女を取り逃がす心配はーー」 言いかけて立ち止まり、振り向くマミ。まどかもまた背後を見て息を呑む。 二人の後から、ほむらが結界に踏み込んでくる。 マミ「...言ったはずよね。二度と会いたくないって」 ほむら「今回の獲物は私が狩る。あなたたちは手を退いて」 マミ「そうもいかないわ。美樹さんとキユウベえを迎えに行かないと」 ほむら「その二人の安全は保証するわ」 マミ「信用すると思って?」 マミ、予め床に仕掛けておいた魔力の網を発動。 不意を突かれ、網に捕らりわれて動けなくなるほむら。 ほむら「馬鹿ッ...こんなことやってる場合じゃ!」 マミ「もちろん怪我させるつもりはないけど、あんまり暴れたら保証しかねるわ」 忠行をよそに抵抗するほむら。だが魔力の拘束はますます固く彼女を締め上げる。 ほむら「今度の魔女は、これまでの奴らとはワケが違う!」 マミ「大人しくしていれば、帰りにちゃんと解放してあげる。ーー行きましょう、鹿目さん」 まどか「は、はい...」 ほむら「待て...ぐッ!」 ますますマミの魔力が絞まり、声も出せなくなるほむら。 まどかはその様子を心配げに眺めつつ、マミに促されるままついていく。

口結界迷路の途中 迷路を徘徊する使い魔たちの背後を、そっと忍び足で通り抜けるマミとまどか。 何となく沈黙が重くて、マミに声をかけるまどか。 まどか「おの...マミさん?」 マミ「なに?」 まどか「願い事、私なりに、色々と考えてみたんですけど...」 マミ「決まりそうなの?」 まどか「はい。でも、あの、もしかしたらマミさんには、考え方が甘いって、怒られそうで...」 マミ「どんな夢を叶えるつもり?」 まどか、自分なりに思考を整理しようと努めつつ、たどたどしく語りはじめる。 まどか「私って、昔から、得意な学科とか、人に自慢できる才能とか、何にもなくて...きっとこれから先ずっと、誰の役にも立てないまま、迷惑ばかりかけていくのかなって...それが嫌でしょうがなかったんです」 マミ「...」 まどか「でも、マミさんと会って...誰かを助けるために戦ってるの、見せてもらって...同じことが、私にもできるかもしれないって言われて...何よりも嬉しかったのは、そのことで...」 黙って聞いているマミに、勇気を出して告白するまどか。 まどか「だから私、魔法少女になれたなら、それで願い事は叶っちゃうんです。こんな自分でも、誰かの役に立てるんだって、胸を張って生きていけたら...それが一番の夢だから...」 先を行くマミは、振り向くことなく問い返す。 マミ「...大変だよ? 怪我もするし、恋したり遊んだりしてる暇もなくなっちゃうよ?」 まどか「でも、それでも頑張ってるマミさんに...私、憧れてるんです」 立ち止まるマミ。 マミ「憧れるほどのもんじゃないわよ。私」 まどか「...?」 マミの背中を見守るまどか。その肩が震えているのに気付く。 マミ「無理してカッコつけてるだけで、恐くても、辛くても、誰にも相談できないし、独りぼっちで泣いてばっかり。いいものじゃないわよ。魔法少女なんて」 まどか「マミさんはもう独りぼっちなんかじゃないです」 マミ「そうね、そうなんだよね」 振リ向いて、まどかの手を握るマミ。その日に光る涙を見て、やや驚くまどか。 マミ「本当に、これから...私と一緒に、戦ってくれるの?側にいてくれるの?」 擦れた声で問、つマミに、やや気後れしつつ、それでもきっぱりと頷くまどか。 まどか「はい。...私なんかで、良かったら」 マミは涙を堪えようとして、無理に照れ笑いを浮かべようとする。 マミ「まいったなあ...まだまだちゃんと先輩ぶってなきゃいけないのになあ...やっぱり私、駄目な子だ...」 まどか「マミさん...」 ようやく涙を引っ込めて、笑うマミ。 マミ「...でもさ、折角なんだし、願い事は何か考えておきなよ」 まどか「折角ーーですかね、やっぱり」 冗談めかしたマミの声に、釣られて笑うまどか。 マミ「契約は契約なんだから、ものはついでと思っておこうよ。億万長者とか、素敵な彼氏とか、何だっていいじゃない」 まどか「いやあ、その...」 マミ「じゃあ、こうしましょ。この魔女をやっつけるまでに願い事が決まらなかったら、そのときはキユウベえに、ごちそうとケーキを頼みましょ」 まどか「け、ヶーキ?」 マミ「そう、最高におつきくて贅沢な、お祝いのケーキ。それでみんなでパーティーするの。私と鹿目さんの、魔法少女コンビ結成記念よ」 まどか「ゎ、私、ヶーキで魔法少女に?」 マミ「嫌なら、ちゃんと自分で考える!」 まどか「ふええ...」

口結界最深部 さやかとキユウべえが見守る眼前で、やおら変形しはじめるグリーフシード。そのおぞましさに息を呑むさやか。 キユウべえ「マミ! グリーフシードが動き始めた!孵化が始まるーー急いで!」

口結界迷路の途中 キユウべえからのテレパシーを受けて、頷くマミ。 マミ「オツケー、わかったわ。今日という今日は速攻で片付けるわよ!」 まどか「わわ、そんなーー」 魔力を抑える理由のなくなったマミは、魔法少女スタイルに変身。 まどかの手を引いて、疾風のように結界の迷路を駆け抜ける。 今更ながらマミたちの存在に気付く使い魔たちだが、勢いづいたマミの魔力で片っ端から吹き飛ばされていく。 マミM 『身体が軽いーーこんな幸せな気持ちで戦うなんて

初めて』 切迫した状況にも拘わらず、微笑みを浮かべているマミ。 その笑みに勇気づけられたまどかも、マミの視線に微笑を返す。 マミM 『もう何も恐くない。私ーー独りぼっちじゃないもの!』

口結界最深部 孵化中眼前のグリーフシードから後退るさやかとキユウベえの前に、使い魔たちを蹴散らしながら駆け込んでくるマミとまどか。 マミ「お待たせ!」 さやか「ふう...間に合ったあ」 キユウべえ「気を令けてーー出てくるよ!」 グリーフシード、孵化。現れ出る異形の魔女。 だがマミはまどかたちを庇いつつ、いつにない気迫で身構える。 マミ「せっかくのとこ悪いけど、一気に決めさせてもらうわよ!」 マミ、魔力の投網を発動。先手を打たれていきなり縛り上げられる魔女。 そのままマミは魔銃を魔砲へと変形させ、発射態勢に。 さやか「ゃったーー」

だが今回の魔女は身体が伸縮自在な構造だった。いきなり伸び上がった首から先が、ちょうどマミの頭を丸呑みするほどに顎を拡げて、覆い被さってくる。 マミ「ーーえ?」 信じられない、といった表情で硬直するマミ。 恐怖に目を見開くまどかとさやか。

口結界入口付近 マミの緊縛魔術に縛られていたほむら。 だがふいにマミの魔力が消失し、拘束から解放される。 ほむら「まさか...ッ!」 痛恨の面持ちで舌打ちするほむら。

口結界最深部 糸が切れた人形のように倒れ伏すマミの身体。(実は頭が無くなっているのだがアングルで誤魔化す方向で) その上に、自由になった魔女の巨体が覆い被さり、隠す。 肉と骨を附み砕き、呑み込む音。 まどかとさやかは恐怖のあまり固まって、目を逸らすことも、悲鳴を上げることもできない。 キユウベえ「二人ともーー今すぐ僕と契約を!」 叱陀するキユウベえ。聞こえていても反応できない二人。 キユウベえ「願い事を決めるんだ! 早く!」 マミの骸を食べ終えて、顔(?)を上げる魔女。その眼がまどかとさやかを見据える。 まどか「あ...」 死を覚悟する二人。 キユウベえ「まどか! さやか!」 ほむら「ーーその必要はないわ」 掠み上がった二人を背に庇って、魔女の前に立ちはだかるほむら。 ほむら「こいつを仕留めるのは、私ーー」 ほむら、変身シークェンス。魔法少女スタイルに。 予想だにしなかった救援に、呆然となるまどかとさやか。 魔女はマミのときと同様に、一瞬で伸縮する身体でほむらを捕らえようとする。 だがほむらは瞬間移動したかのように別の位置に。代わりに魔女が捕まえたのは起爆寸前の爆弾である。触手を吹き飛ばされ、絶叫する魔女。 ほむらは次々と瞬間移動を繰り返し、そのたびに次から次へと出現する置き土産の罠にひっかかり、一方的に翻弄される魔女。(ほむらは得意の時間静止魔術を駆使しているのだが、見守っているまどかやさやかには理解できない) 華麗だったマミの戦闘スタイルとに違い、冷附かつ無駄のない戦略。全く違う次元の魔法戦闘を見せつけられるまどか。 ほむら「...ふん」 最後に何事もなかったかのように鼻を鳴らして、いきなり変身を解除するほむら。まどかたちの方に向き直る。 ほむら「命拾いしたわね、あなたたち」 さやか「なーー」 ここぞとばかりに襲いかかる魔女。だがその周囲は、既に必殺の罠で完全に包囲されている。 背を向けたほむらの背後で、とどめを刺され、絶叫とともに出消滅する魔女。 ほむら「目に焼きつけておきなさい。魔法少女になるって、そういうことよ」 半泣きになりながら、地面の一画(マミの死体がある辺り)を見つめているまどかとさやか。 魔女が消滅したことで、結界もまた消えていく。周囲は再び、もとの駐輪場の光景に。 後に残されたグリーフシードを、ほむらが拾い上げる。 それを見て、遣り場のない怒りに駆られるさやか。 さやか「...返してよ」 ほむら「...」 無言で見つめ返すほむらに、掴みかかるさやか。 さやか「返せよッ!それはーーそれはマミさんのものだ!」 逆上するさやかを振り払い、そのまま冷ややかな眼差しで見下ろすほむら。 ほむら「そうよ。これは魔法少女のためのもの。ーーあなたたちには触る資格なんて、ない」 言い放ち、そのまま去っていくほむら。 後には泣き崩れるさやかと、虚ろな目で立ち尽くすまどかが取り残される。 そしてキユウべえは、絶望する二人ではなく、去っていくほむらの背中を、何やら物思いに耽りながら見送る。