The Beginning Story: Episode 7

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Part A

口さやかの部屋 帰宅したさやか。 部屋でキユウベえと二人きりになったところで、さやかはソウルジエムを勉強机の上に投げ就き、血相を変えて相手を問い詰める。 さやか「騙してたのね、あたしたちを...」 困惑するキュゥベえ。 キユウベえ「僕は魔法少女になってくれって、きちんとお願いしたはずだよ。実際の姿がどういうものかは、説明を省略したけれど」 さやか「なんで教えてくれなかったのよ!?」 キユウベえ「訊かれなかったからさ。知らなければ知らないままで、何の不都合もないからね。事実、あのマミでさえ最後まで気付かなかった」 さやかの剣幕に対して、キユウべえは全く悪びれた様子もない。 キユウベえ「そもそも君たち人間は、魂の存在なんて最初から自覚できてないんだろう?」 キユウべえはさやかの頭を指差し、 キユゥべえ「そこは神経細胞の集まりでしかないしーー」 続けて今度は胸を指差し、 キユウベえ「ーーそこは循環器系の中枢があるだけだ。そのくせ生命が維持できなくなると、人間は精神まで消滅してしまう。そうならないよう、僕は君たちの魂を実体化し、手に取って、きちんと護れる形にしてあげた。少しでも安全に魔女と戦えるように、ね」 さやか「大きな...お世話よ!そんな余計なこと...」 キユウベえ「君は戦いというものを甘く考えすぎだよ」 呆れ果てた、とばかり溜息をつくキユウべえ。 キユウベえ「たとえばお腹に槍が刺さった場合、肉体の痛覚がどれだけの刺激を受けるかっていうとね...」 キユウベえ、机の上に放置されたさやかのソウルジエムに触れて、何らかの魔力を送り込む。 さやか「ひっーーツ!!」 途端に、腹に物凄い激痛を覚えて身体を折り曲げるさやか。 キユウべえ「これが本来の『痛み」だよ。ただの一発でも動けやしないだろう?」 さやか「あ...う...」 痛みに悶えながら、五話での杏子との戦いを回想するさやか。 幾度となく身体に与えられた壊滅的なダメージを思い出し、身震いする。 そんなさやかを見つめながら、平然と説明を続けるキユウベぇ。 キユウベえ「君が杏子との戦いで最後まで立っていられたのは、強すぎる苦痛がセーブされていたからさ。君の意識が肉体と直結してないからこそ可能なことだ。おかげで君はあの戦闘を生き延びることができた」 キユウべえ、ソウルジエムから手を離す。 即座に苦痛から解放されるさやか。荒い呼吸で脱力する。 キユウベえ「慣れてくれば完全に痛みを遮断することもできるよ。もっとも、それはそれで動きが鈍るから、あまりお勧めはしないけど」 さやか「...何でよ...どうしてあたしたちを、こんな目に...」 半泣きで訴えかけるさやかに、にっこりと微笑むキユウベえ。 キユウベえ「戦いの運命を受け入れてまで、君には叶えたい望みがあったんだろう?それは間違いなく実現したじゃないか」

口学校、教室 朝、HR前。登校した生徒たちの喧嘩。 そこに入ってくる早乙女先生。日直が号令をかける。 日直「きり~っ、礼~」 まどか、心配げに空っぽのさやかの席を見る。今日は登校しないのだろうか。

口さやかの部屋 カーテンを閉め切った暗い部屋。 顕から布団を被り、落ち込んでいるさやか。 布団の中で自分のソウルジエムを握りしめ、その輝きを見つめている。

口学校屋上 休み時間。フェンスによりかかっているまどかとほむら。 まどか「ほむらちゃんは...知ってたの?」 無言で領くほむら。 まどか「どうして、教えてくれなかったの?」 ほむら「前もって話しても、信じてくれた人は、今まで一人もいなかったわ」 まどか「...」 何故いつもそうやって他人のことを諦めてばかりなのかと問い糾したくなるまどかだが、代わりに違う質問をする。 まどか「キユウべえは、どうしてこんな酷いことをするの?」 ほむら「あいつは酷いとさえ思つてない。人間の価値観が通用しない生き物だから。何もかも、奇跡の正当な対価だと、そう言い張るだけよ」 まどか「ぜんぜん、釣り合ってないよ!」 思わず叫ぶまどか。 まどか「あんな身体にされちゃうなんて...さやかちゃんは、ただ好きな人の怪我を治したかっただけなのに...」 ほむら「奇跡であることに違いはないわ。不可能を可能にしたんだから」 あくまで冷静に応じるほむら。 ほむら「美樹さやかが一生を費やして介護しても、あの少年が再び演奏できるようになる日は来なかった。奇跡はね、本当なら人の命でさえ贖えるものじゃないのよ。それを売って歩いているのが、あいつ」 まどか、悔しいものの反論できない。ややあって、さらに別の質問を。 まどか「さやかちゃんは...もとの暮らしには、戻れないの?」 ほむら「...前にも言ったわよね。美樹さやかのことは諦めろって」 まどか「さやかちゃんは、私を助けてくれたの」 まどか、四話で魔女に襲われたときのことを回想する。 まどか「さやかちゃんが魔法少女じゃなかったら、あのときわたしも、仁美ちゃんも、死んでたの...」 ほむら「感謝と責任を混同しては、駄目よ」 あくまで情に流されることなく、きっぱりと言い切るほむら。 ほむら「あなたには彼女を救う手立てなんてない。引け目を感じたくないからって、借りを返そうだなんて、そんな出過ぎた考えは捨てなさい」 さやかの冷淡さが我慢ならず、身震いするまどか。 まどか「...ほむらちゃん、どうしていつも、そんなに冷たいの?」 ほむら「そうね...」 ほむら、手の中のソウルジエムを見下ろして、自嘲気味に微笑む。 ほむら「きっともう、人間じゃないから、かもね」 まどか「...」 他人だけでなく自分白身に対してさえ冷酷なほむらを、心底哀しく思うまどか。

口さやかの部屋 午後になっても布団から出られないさやか。 憂欝な面持ちのまま、恭介のことを思う。 さやか「こんな身体になっちゃって...あたし、どんな顔して恭介に会えばいいのかな」 そこへ不意に、脳裏に響く杏子からのテレパシー。 杏子「いつまでもしょぼくれてんじゃねーぞ、ボンクラ』 さやか「...ッ!?」 驚き、布団を払い除けて跳び起きるさやか。 窓に駆け寄って外を見下ろす。 家の前に、林檎を囓りながら佇んでいる杏子。片手には青果店の紙袋を抱えている。 杏子「ちょいと面貸しな。話がある』

口夕刻の街外れ 雑木林に覆われた丘の坂道。林檎片手に、先に立って歩く杏子。後からついてくるさやかに、無防備な背中を晒している。 さやかは舐められているのか、それとも何かの罠なのか判断がつかず、緊張した面持ちのままついていく。 杏子「あんたさあ、やっぱり後悔してるの? こんな身体にされちゃったこと」 さやか「...」 無言のさやかに構わず、杏子は話を続ける。 杏子「あたしはさ、まあいいか、って思ってるんだ。なんだかんだで、この力を手に入れたから好き勝手できてるわけだし。後悔するほどのことでもないってね」 さやか「あんたは...自業自得なだけでしょ」 杏子「そうだよ。自業自得にしちゃえばいいのさ」 あっけらかんと応じる杏子。 杏子「自分のためにだけ生きてれば、何もかも自分のせいだ。誰を恨むこともないし、後悔なんであるわけがない。そう思えば、大抵のことは背負えるもんさ」 さやか「...」 相変わらず杏子の真意が読めないさやか。 やがて二人は、丘の頂に。そこには廃墟と化した教会が建っている。

口教会の廃墟 玄関を蹴り開けて、中に入る杏子。後に続くさやか。 さやか「...こんな所まで連れてきて、何なのよ?」 杏子は手の中の林檎を弄びながら、どう切り出すか思案するかのように、祭壇の辺りをぶらぶら歩く。 杏子「ちょっとばかり長い話になる」 紙袋の中の林檎のひとつを、さやかへと放ってよこす杏子。 杏子「食うかい?」 さやか「...」 怒りを噛み殺し、投げ渡された林檎を放り捨てるさやか。 その途端、いきなり杏子がさやかの間合いに踏み込み、襟首を掴んで締め上げる。杏子はかつてないほどに本気の怒リの形相。 杏子「食い物を粗末にするんじゃねえ...殺すぞ?」 さやか「...」 シニカルなばかりと思っていた杏子の豹変に、驚いてやや気圧されるさやか。 杏子はさやかから手を離すと、彼女が捨てた林檎を拾い、丁寧に汚れを拭ってから、袋に戻す。 呆気に取られているさやかを余所に、杏子は教会の中をぶらつきながら、想い出に耽る。 杏子「...ここはね、あたしの親父の教会だった」

口杏子の回想 往年の清潔な教会。古い蝋燭を取り替えて火を点している杏子の父。 幼い頃の杏子と妹も、雑巾掛けなどして掃除している。 微笑みを交わす父親と姉妹。 杏子off「正直すぎて、優しすぎる人だった。每朝、新聞を読むたびに涙浮かべて、どうして世の中がよくならないのか、真剣に悩んでるような人でさ」 信徒席に座る信者たちを前にして、説教している父の姿。 杏子off「新しい時代を救うには、新しい信仰が必要だって、それが親父の言い分だった。だからあるとき、教義にないことまで信者に説教するようになった」 空つぽになった教会。 呆然としている杏子の父。 杏子off「勿論、信者の足はばったり途絶えたよ。本部からも破門された」 次第に荒れ果てて、廃墟じみていく教会。 杏子off 「誰も親父の話を聞こうとしなかった。当然だよね。はたから見れば胡散臭い新興宗教さ。どんなに正しいことを、当たり前のことを話そうとしても、世間じゃただの鼻つまみものさ」 みすぼらしい姿のまま、信徒たちの家を巡回して説教しようとするの杏子と父。だが冷たく門前払いであしらわれる。 杏子off「あたしたちは一家揃って、食うモノにも事欠く有様だった」 佐倉家の食卓。水のようなスープだけしかない侘びしい夕食。 杏子off「納得できなかったよ。親父は間違ったことなんて言つてなかった。ただ、人と違うことを話しただけだ」 夜の街の賑わいの中を、失意のまま歩く父娘。 周囲で笑顔の通行人たちは、二人にまったく日もくれない、。 杏子off「5分でいい、ちゃんと耳を傾けてくれれば、正しいことを言ってるって、誰にでも分かったはずなんだ。...なのに誰も相手をしてくれなかった。真面目に取り合ってくれなかった」 寂れた教会の信徒席に、肩を落として立っている杏子の父。 杏子off「...悔しかった。許せなかった。誰もあの人のこと分かってくれないのが、あたしには我慢できなかった」 やせ衰えて、街を歩く杏子。ふと目に留めた果物屋で、飾つである林檎に我慢が出来ず、万引きしようとする。 あっさり見つかり、店員に手ひどく殴られる杏子。

口廃墟の教会・現在 手にした林檎を見つめている杏子。 杏子「だから、キユウべえに頼んだんだよ。...みんなが親父の話を、真面目に聞いてくれますように、って」 さやか「...」 意外すぎる真相に、驚きを隠せないさやか。

口杏子の回想 いきなり大勢の信徒が列を成している教会。 杏子off「翌朝には、親父の教会は押しかけた人でごった返してた。毎日おっかなくなるほどの勢いで信者は増えてった」 夜の街、颯爽と魔女たちを狩っている魔法少女スタイルの杏子。 杏子off「あたしはあたしで、晴れて魔法少女の仲間入りさ」 満場の信徒を前にして、意気揚々と説教する杏子の父。 杏子off「いくら親父の説教が正しくたって、それで魔女が退治できるわけじゃない。だからそこはあたしの出番だって、パカみたいに意気込んでたよ。あたしと親父で、表と裏から、この世界を救うんだって...」

口廃墟の教会・現在 ザク、と林檎を囓ってから、ニヒルに笑う杏子。 杏子「でもね、あるとき、ヵラクリが親父にばれた」 さやか「...」 杏子「大勢の信者が、ただ信仰のためじゃなく、魔法の力で集まってきたんだと知ったとき、親父はブチ切れたよ。娘のあたしを、人の心を惑わす魔女だって罵った。笑っちゃうよね。あたしは毎晩、本物の魔女と戦い続けてたってのに」

口杏子の回想 佐倉家のダイニングキッチン。飛び散った血痕。 首を吊った父の足先が宙で揺れている。 部屋の入口で、それを呆然と眺めている杏子。 杏子off「それで親父は壊れちまった。最後は惨めだったよ。酒に溺れて、頭がイカして、とうとう家族道連れに無理心中さ。あたし一人を置き去リにして、れ。

口廃墟の教会・現在 食べ終わった林檎の芯を、ぽいと床に放リ捨てる杏子。 杏子「あたしの祈りが、家族を壊しちまったんだ」 さやか「...」 さやか、真相にショックを受けて返す言葉もない。 杏子「他人の都合を知りもせず、勝手な願い事をしたせいで、けっきょく誰もが不幸になった。ーーそのとき心に誓ったんだよ。もう二度と、他人のために魔法を使ったりしない。この力は、すべて自分のためだけに使い切る、って」

Part B

口廃墟の教会・現在 【Aパート】より継続。 杏子はさやかの方へと向き直り、穏やかに語り聞かせる。 杏子「奇跡つてのはタダじゃないんだ。希望を祈れば、それと同じぷんだけの絶望が撒き散らされる。そうやって差し引きをゼロにして、世の中のバランスは成り立つてるんだよ」 さやか「...なんでそんな話を、あたしに?」 床を見つめたまま問うさやか。 杏子「...」 やや気恥ずかしいのを誤魔化すために、いったん黙る杏子。 袋から新しい林檎を取り出す。 杏子「これ以上、後悔するような生き方を続けるべきじゃない。 あんたはもう、対価としては高すぎるモンを支払っちまってるんだ。だからさ、これからは釣り銭を取り戻すことを考えなよ」 さやか「...あんたみたいに?」 杏子「そうさ」 杏子は手にした林檎に口をつけず、さやかを見つめている。もう一度、さやかにそれを受け取って欲しいと思っている。 杏子「あんたも開き直って、好き勝手にやればいい。自業自得の人生を、さ」 杏子が完全な悪人ではないと理解し、微笑するさやか。 少しだけ皮肉を込めて言い返す。 さやか「...それって、変じゃない?あんたは自分のことだけ考えて生きてるはずなのに、どうしてあたしの心配なんかしてくれるわけ?」 杏子「...」 鼻白むものの、杏子は言い返さない。あくまで真摯に本題を続ける。 杏子「あんたもあたしも、同じ間違いから始まった。...あたしはそれを弁えてるが、アンタは今も間違え続けてる。見てられないんだよ。そいつが」 さやか、ようやく向き直り、.正面から杏子を見つめる。 さやか「あんたのこと、色々と誤解してた。そのことはごめん。謝るよ」 杏子「...」 むょっとだけ嬉しそうに微笑みそうになる杏子。だが、さやかは真顔で先を続ける。 さやか「でもね、あたしは人のために祈ったことを、後悔してない。その気持ちを嘘にしないために、後悔だけはしないって決めたの。これからも」 杏子「何でアンタは...」 分からないんだ?と言いたくなる杏子だが、さやかの言葉を遮れない。 さやか「あたしはね、高すぎるものを支払ったなんて思ってない。この力は、使い方次第で、いくらでも素晴らしいモノにできるはずだから」 杏子「...」 さやか「それからさーー」 さやか、杏子から目を逸らし、やや口調を硬くして、 さやか「あんた、その林檎はどうやって手に入れたの?お店で払ったお金はどうしたの?」 杏子「...」 当然、合法的ではないので言いよどむ杏子。 さやか「...言えないんだね。ならあたし、その林檎は食べられない。もらっても嬉しくない」 さやか、杏子に背を向けて、教会の廃墟を出て行こうとする。 たまらず、その背中に向けて叫ぶ杏子。 杏子「パカヤロウ! あたしたち魔法少女だぞ! 他に同類なんていないんだぞ!」 足を止め、やや悔しそうに俯くさやか。 さやか「あたしは、あたしのやり方で戦い続けるよ。それがあんたの邪魔になるなら、前みたいに殺しに来ればいい。あたしは負けないし、もう恨んだりもしないよ」 そう言い残し、教会を出て行くさやか。 杏子、悔しさに歯噛みしつつ、八つ当たりのように林檎に噛みつく。

口朝の通学路 一人、とぼとぼと歩いて登校途中のさやか。 その後ろからまどかと仁美が追いつく。 まどか「さやかちゃん、おはよ!」 仁美「おはようございます。さやかさん」 さやか「ぁ、ああ。ーーおはよっ」 普段の元気を取り繕って、挨拶を返すさやか。 その空元気を見透かして、少しだけ心配になるまどか。 仁美「昨日はどうかしたんですの?」 さやか「ん~、ちょっとばかり風邪っぽくてね」 まどか「さやかちゃん...」 大丈夫? と言いかけるまどかに、念話で先回りするさやか。 さやか『大丈夫だよ。もう平気。心配いらないから』 まどか「...」 さやか「さーて、今日も張り切ってーー」 言いかけるさやかだが、松葉杖をつきながら登校途中の恭介の姿を見つけ、思わず硬直する。 仁美「あら...上条くん、退院なさったんですの?」 驚く仁美。 恭介は杖での歩行に苦労しつつも、行き合うクラスメイトたちと朗らかに挨拶を交わしている。 さやか「...」 喜びよりも気まずさが先に立っさやかの表情。それを見咎めたまどかの顔も、やや曇る。

口学校・教室 HR前の賑わい。 久々に登校してきた恭介の机の周りに、クラスメイトたちが集まっている。 中沢「上条...もう怪我はいいのかよ?」 恭介「ああ。家に籠もってたんじゃリハビリにならないしね。 来週までに松葉杖なしで歩くのが目標なんだ」 そんな恭介を巡る話の輪に、さやかは気後れして入っていけず、遠巻きに眺めている。隣にはまどかと仁美。 まどか「良かったね、上条くん」 さやか「うん...」 まどか「さやかちゃんも、行ってきなよ。まだ声かけてないんでしょう?」 さやか「あたしは...いいよ」 仁美「...」 普段と違って元気のないさやかが、心配になるまどか。 仁美は仁美で、そんなさやかを見つめながら、何やら考え込んでいる。

口ファーストフード店 放課後の寄り道。仁美とさやかが差し向かいに座っている。そこはかとなく緊張した空気。 さやか「...それで、話って、なに?」 仁美「恋の、相談ですわ」 思い詰めた風に告げる仁美。つられて緊張の面持ちのさやか。 仁美「私ね、前からさやかさんやまどかさんに秘密にしてきたことがあるんですの」 さやか「え?うん...」 仁美「ずっと前から...私、上条恭介くんのことお慕いしてましたのよ」 衝撃を受けて日を見張るさやか。 さやか「そ、そうなんだ...」 ともかく動揺を押し隠そうとするさやかだが、上手くいかない。 さやか「あ、ハハ...まさか仁美がねえ。な~んだ、恭介のヤツも隅に置けないなあ」 すべて見透かしている仁美は真顔のまま。 仁美「さやかさんは、上条くんとは幼馴染みでしたわね」 さやか「んん、まあ、その...腐れ縁っていうか、何ていうか...」 仁美「本当に、それだけ?」 さやか「...」 言い繕えなくなり、生唾を呑むさやか。 仁美「私、決めたんですの。もう自分に嘘はつかないって。あなたはどうですか?さやかさん、あなた自身の本当の気持ちと向き合えますか?」 さやか「な...何の話をしてるのさ...」 仁美「あなたは、私の大切なお友達ですわ。...だから抜け駆けも、横取りするようなこともしたくないんですの」 毅然と言い放つ仁美に気圧されて、声も山せないさやか。 仁美「上条くんのことを見つめていた時間は、私より、さやかさんの方が上ですわ。だからあなたには私の先を越す権利があるべきです」 さやか「仁美...」 仁美「私、明日の放課後に上条くんに告白します。丸一日だけお待ちしますわ。その問に...さやかさんは後悔なさらないよう、決めて下さい。上条くんに気持ちを伝えるべきかどうか」 さやか「ぁ、あたしは...」 仁美は席を立ち、さやかに一礼して去っていく。

口美樹家のアパートの前 夜、悄然としながらも、魔女探しのために外に出てくるさやか。その後に続くキユウベえ。 すると五話のときと同様に、まどかが街灯の下で待っている。 それに気付いて、やや驚くさやか。 さやか「まどか...」 まどか「ついてって、いいかな?」 さやか「...」 全てに見捨てられたかのような気分で、自分の価値を見失いつつあるさやかは、まどかの優しさに戸惑うしかない。 まどか「さやかちゃんに、独りぼっちになってほしくないの。 だから...」 上手く言えないまどか。だがさやかの目から涙が溢れ出る。 さやか「あんた、何で...何でそんなに、優しいかなあ... あたしには、そんな価値なんてないのに...」 まどか「そんなーー」 とめどなく泣くさやか。自責の念に歯止めが利かない。 さやか「あたしね、今日、後悔しそうになっちゃった」 まどか「...」 さやか「あのとき仁美を助けなければって...ほんの一瞬だけ、思っちゃった...正義の味方、失格だよ...:マミさんに、顔向けできない...」 見ていられなくなって、さやかを抱きしめるまどか。 さやか「仁美に、恭介を取られちゃうよ...でもあたし、何もできない...」 まどかの腕の中で、泣きじゃくるさやか。 さやか「だってあたし、もう死んでるんだもん、ゾンピだもん...こんな身体で、抱きしめてなんて言えない...キスしてなんて、言えない...」 まどか「...ツ」 まどかも釣られて泣きながら、それでも慰めの言葉ひとつ言えない。 二人はしばしの間、抱き合ったまま、ただ涙を流し続ける。

x x x ややあって、ようやく泣きやむさやか。まどかの腕の中から身を離す。 さやか「...ありがと。ごめんね」 まどか「さやかちゃん...」 さやか「もう大丈夫。すっきりしたから」 涙を拭ぃ、気丈に微笑むさやか。 さやか「さあ、行こ。今夜も魔女をやっつけないと」 まどか「...うん」

口倉庫街 誰もいないコンテナの谷間に、魔女の結界を示す空間のゆらぎがある。 結界内の激しい戦いを暗示するかのように、時折、小さな放電が散っている。 その様子を、頭上に聳えるクレーンの上に腰掛けて眺めている杏子。暗鬱な無表情のまま、アイスキャンデーを食べている。 さらにそこにほむらが姿を現し、杏子の背後に立つ。 ほむら「黙って見てるだけだなんて、意外だわ」 杏子「...今日のあいつは使い魔じゃなくて魔女と戦ってる。ちゃんとグリーフシードも落とすだろ。無駄な狩りじゃないよ」 ほむら「そんな理由で、あなたが獲物を譲るなんてね」 杏子「...」 杏子が言い返そうとしたとき、結界の歪みが、ひときわ激しく脈動する。舌打ちする杏子。 杏子「あの馬鹿、手こずりゃがって...」

口結界内部 魔女と織烈な戦いを演じているさやか。その後ろで見守っているまどかとキユウベえ。 使い魔よりはるかに強力な魔女との戦いは久々で、さやかは苦戦を強いられる。見守るまどかも気が気ではない。 さやか「くッ...」 さやか、ついに強力な攻撃を立て続けに食らい、膝をつく。無防備なその隙に、とどめの一撃を浴びせようとする魔女。 まどか「さやかちゃん、危ない...!」 だがそこに、横合いから割リ込んだ杏子の一撃が炸裂する。吹き飛ばされる魔女。 杏子「まったく...見てらんねーつつーの」 アイスキャンデーを咥えたまま、鼻を鳴らす杏子。 杏子「いいからもう、すっこんでなよ。手本を見せてやるからさ...」 さやかを背後に庇ったまま、槍を構える杏子。 だが立ち上がったさやかは、ゆっくりと杏子を押しのけて前に出る。 杏子「おいーー」 さやか「邪魔しないで。一人でやれるわ」 再び攻撃を仕掛けてくる魔女。だがさやかは避けようともせず真っ向から無防備に突進する。 両者、相打ち。さやかの剣は魔女を扶るが、彼女もまた大ダメージを受ける。 まどか「さやかちゃん!?」 悲鳴を上げるまどか。 だが魔女が苦悶に身を捩る一方で、さやかの方は傷など意に介さず笑っている。 さやか「はは...あはは...」 杏子「アン夕、まさか...」 息を呑む杏子。 魔女、苦し紛れの反撃。今度もまたそれを避けず、クロスカウンターの剣撃を叩き込むさやか。 見るも無惨なほど血にまみれながら、それでもカラカラと笑っているさやか。 さやか「あははっ、本当だあ...その気になれば、痛みなんて...完全に消しちゃ、えるんだあ...」 笑いながら魔女に追い打ちをかけるさやか。どんな反撃を食らおうとお構いなしに、ただ相手を切り刻むことにのみ専念する。 あまりにも無惨な光景に、ただ言葉もなく息を呑む杏子。 まどかは正視できずに目を逸らす。 まどか「やめて...もう、やめて...」 まどかの声など耳に届かず、笑いながら剣を振り続けるさやか。その狂おしい声は泣いているようにさえ聞こえる。