The Beginning Story: Episode 8

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Part A

口結界内部(前話より継続) 自らの負傷も意に介さず魔女を切り刻むさやか。 それを愕然と見守るまどかと杏子。 ついに魔女が動かなくなる。さやかは生きているのが不思議なほどの重傷。だがそれも、すぐに発動した治癒魔法によって再生されていく。 さやか「ハン、やり方さえ分かつちやえば簡単なもんだね。...これなら負ける気がしないわ」 消えていく魔女の死骸。結界も消滅し、周囲はもとの倉庫街に。 後に残されるグリーフシード。さやかはそれを拾い上げると、杏子へと投げ波す。 さやか「あげるよ。そいつが目当てなんでしょ?」 杏子「おい...」 さやか「あんたに借りは作らないから。これでチャラ。いいわね」 杏子「...」 さやか「さあ、帰ろう。まどか」 まどか「さやかちゃん...」 さやか「なに震えてんのさ?もう大丈夫だってば」 さやか、変身を解除。だが憔悴のあまりよろめく。慌てて支えるまどか。 さやか「あー、ごめん。ちょっと疲れちゃった...」 まどか「...無理しないで。掴まって」 まどかの肩を借りながら、去っていくさやか。 その背中を、杏子は投げ渡されたグリーフシードを握りしめながら見送る。 杏子「...あのパカ...」

口街の全景 夜の街に、いつしか雨が降り始める。

ロバス停 運行終了した深夜のバス停。 屋根の下でベンチに腰掛け、雨宿りしながら休憩しているさやかとまどか。 明らかに憔悴しているさやかの様子を、見かねて話しかけるまどか。 まどか「さやかちゃん...あんな戦い方、ないよ...」 さやか「...」 まどかにダメ出しされたことが気に障り、俯いたまま、やや表情を硬くするさやか。 だがそれにまどかは気付かず、七話~冒頭までのさやかの戦いを回想する。 思い出しただけで涙が出てくるまどか。 まどか「痛くないなんて、嘘だよ...見てるだけでも、痛かったもん。感じないから痛くてもいいなんて、そんなの、駄目だよ...さやかちゃん、いつか本当に壊れちゃうよ」 さやか「...ああでもしなきゃ、勝てないんだよ。あたし、才能ないからさ」 まどか「あんなやり方で戦ってたら、勝てたとしても、さやかちゃんのためにならないよ...」 さやか、その一言が聞き流せず癇に障る。 さやか「...あたしのためって、何よ?」 さやか、押し殺した声で問いながら、まどかに向けて自分のソウルジエムを突きつける。 さやか「こんな姿にされた後で、何があたしのためになるつてい、つの?」 今さらながらさやかの怒りを察して、萎縮するまどか。 まどか「さやかちゃん...」 さやか「今のあたしはね、魔女を殺すーーただそれだけしか意味のない石ころなのよ。死んだ身体を動かして生きてるフリをしてるだけ。そんなあたしのために、誰が?何をしてくれるっていうの?ない」 まどか「でもわたしは...どうすればさやかちゃんが幸せになれるかつて...」 さやか「だったらあんたが戦ってよ!」 逆上してつい言ってしまうさやか。あまりにも決定的な言葉に、凍りつくまどか。 さやか「キユウべえから聞いたわよ。あんた、誰よりも才能あるんでしょ?あたしみたいな苦労しなくても、簡単に魔女をやっつけられるんでしょ!?」 まどか「わたしはーー」 まどかの脳裏をよぎる過去、のキユウベえの言葉(三話【Aパート】P. 39) × × × キユウべえ「まどかが魔法少女になれば、マミよりずっと強くなれるよ」 × × × さやか「あたしのために何かしようっていうんなら、まずあたしと同じ立場になってみなさいよ!無理でしょ?当然だよね。ただの同情で人間やめられるわけないもんね!」 まどか「同情なんて、そんな...」 さやか「何でもできるくせに何もしないあんたの代わりに、あたしがこんな日に遭ってるの。それを棚に上げて知ったようなこと首わないで」 さやか、激しい口調で言い捨ててバス停から立ち去ろうとする。 まどか「さやかちゃん...」 さやか「ついてこないで!」 追い槌ろうとするまどかを一喝するさやか。 まどかが身を竦ませている間に、さやかは雨の中に走り去る。 涙に暮れながら、それでも追いかけられないまどか。 × × × 雨の小を走りながら、自己嫌悪に悔し泣きするさやか。 さやか「バカだよ、あたし...何てこと言ってんのよ...もう救いようがないよ...」 握リしめたグリーフシードが、黒く、黒く濁っていく。

口ほむらのアパート 古い木造和室の六畳問。何の調皮品も生活感もない廃屋のような部屋。 その襖や壁に所狭しと市内の地図や魔法陣の図案が貼り付けられている。 卓袱台の上に拡げられた市外全域図を挟んで座っている杏子とほむら。 地図にはピンやらマーヵーの書き込みがびっしりと施されている。 ほむら「ワルプルギスの夜の出現予測は、この範囲...いずれのパターンにも対応できる防衛線を張るためには、最低でもここと、ここの2カ所の霊脈を押さえておく必要があるわ」 カップラーメンを食べながら、ほむらの説明を聞いている杏子。 杏子「この出現予測の根拠は何だい?」 ほむら「統計よ」 杏子「統計?」 胡散臭そうに眉をひそめる杏子。 杏子「以前にもこの街にワルプルギスが來たなんて話は聞いてないよ。いったい何をどう統計したってのさ?」 ほむら「...」 沈黙するほむら。ラーメンを啜る箸を止め、歎息する杏子。 杏子「お瓦い、信用しろだなんて言える柄でもないけどさ。もうちょっと手の内を見せてくれたっていいんじゃない?」 キユウベえ「ーーそれはぜひ僕からもお願いしたいね。暁美ほむら」 どこからともなく出現し、会話に割り込んでくるキユウベぇ。 冷ややかな眼差しでキユウべえを見据えるほむら。 杏子もまた、変身はせずにソウルジエムだけを槍に変形させ、キュゥベえに突きつける。 杏子「どの而下げて山てきやがった、テメェ...」 キユウべえ「やれやれ、招かれざ客、ってわけかい? 今夜は君たちにとっても重要なはずの情報を報せにきたんだけどね」 杏子「ああ?」 キユゥベえ「美樹さやかの消耗が予想以上に迷い。魔力を使、つだけでなく、彼女自身が呪いを生み始めた」 杏子「誰のせいだと思ってんのさ...」 キユウベえ「このままだと、ワルプルギスの夜が来るより先に厄介なことになるかもしれない。注意しておいたほうがいいよ」 杏子「...何だそりゃ? どういう意味だ?」 キユウベえ「僕じゃなくて、彼女に訊いてみたらどうだい?」 意地悪く笑って、ほむらを見つめるキユウベえ。 キユウベえ「君なら既に知っているんじゃないかな?暁美ほむら」 ほむら「...」 怒りの眼差しでキユウべえを見返すほむら。だが、その表情に疑問の気配はない。 キユウベえ「ーーやっぱりね。どこでその知識を手に入れたのか、僕はとても興味深い。君はーー」 ほむら「聞くだけのことは聞いたわ。消えなさい」 殺意を秘めたほむらの言葉に、キユウべえは肩を竦め、するりと杏子の槍先をかわして窓から山出て行く。 杏子「放っとくのかよ? あいつ」 ほむら「あれを殺したところで何の解決にもならないわ」 杏子「...それよりも、美樹さやかだ。あいつの言ってた厄介事つてのは何なんだ?」 ほむら、珍しく焦リを面に出す。 ほむら「彼女のソウルジエムは、穢れを溜め込みすぎたのよ。早く浄化しないと、取り返しのつかないことになる...」

口学校 まどかたちのクラス。授業中の風景。 空つぽのさやかの席。 それを見つめながら、後悔に身を焦がすまどか。 まどかM 『あのとき...追いかけなきゃ、駄目だったのに...』 前夜の雨の中での別れを思い出し、自分の無力さに泣きそうになる。

口夕暮れの市民公園 大きな敷地の緑地公園の遊歩道。 放課後の恭介と仁美が連れ立って談笑しながら歩いている。 恭介「病院の本棚だとさ、古い漫画しか置いてなくて。でも思ったより面白いんだよ。石ノボ森章太郎とか」 仁美「私、あまり漫画は詳しくなくて...」 恭介「今度ぜひ読んでごらんよ。図書館にもあるから」 恭介の松葉杖の歩調に合わせて、ゆっくり歩く仁美。 恭介「ーーでもさ、志筑さんつて帰る方角はこっちなんだっけ?今まで、帰り道に見かけたことってないような...」 仁美「ええ。本当はぜんぜん逆方向ですわ」 恭介「え? ...じゃあ今日は、どうして?」 戸惑う恭介に、意を決して切り出す仁美。 仁美「上条くんに、お話ししたいことがありますの」

口さやかのアパート 玄関先。中にいるらしき、さやかの家族と話しているまどか。 まどか「えっ...帰つてないんですか?昨日から?そんな...はい、えっと...分かりました。はい、失礼します...」 門前を辞して、道に出てから走り出すまどか。 まどかM「さやかちゃん...探さなきゃ!』

口夕暮れの市民公園 森の小道で告白する仁美。驚き戸惑いつつも照れる恭介。 そんなこ人の様子を、遠くの木陰からさやかが見守っている。 恭介と仁美の声は聞こえないが、明らかに良い雰囲気。 やがて恭介ははにかみながらも頷き、仁美も笑顔で恭介の手を握る。 それを見届けて、無言のままその場を去るさやか。

口魔女の結界(街の裏路地) 怒りを込めて荒々しく魔女狩りに臨むさやか。今まさにとどめの一撃。 さやか「つおおおおツ!!」 使い魔「ギヤアアアアッ!」 さやかの剣に斬られ、絶命する使い魔。 そして結界は消滅し、もとの夜の街の裏路地の景色に戻る。 やはり使い魔だったせいで、グリーフシードは残さない。 疲弊し、荒い息をつきながら、変身を解除するさやか。 疲労のあまりうずくまる。すっかり黒ずんだソウルジエム。 その背後に足音。はっとしてさやかが振り向くと、ほむらが佇んでいる。 ほむら「...どうして分からないの?ただでさえ余裕がないのなら、魔女だけを狙って仕留めなきゃ駄目なのよ」 さやか「...うるさい...大きなお世話よ...」 ほむら「もうソウルジエムも限界のはずよ。今すぐ浄化しないと、致命的なことになる」 ほむら、懐から取り出したグリーフシードを、うずくまるさやかの足下に放る。 ほむら「使いなさい」 さやか「...今度は、何を企んでるのさ?」 ほむら「いい加減にして!」 珍しく感情を露わにして怒鳴るほむら。 ほむら「あなた、もう他人を疑ってる場合じゃないでしょ!そんなに私に助けられるのが厭なの!?」 さやか「あんたたちとは違う魔法少女になる...あたしは、そう決めたんだ...」 ほむらの語気には釣られず、静かに語るさやか。 さやか「誰かを見捨てるのも、利用するのも...そんなことをする奴らとつるむのも厭だ...見返りなんでいらない。あたしだけば絶対に、自分のために魔法を使ったりしない」 ほむら「あなた、死ぬわよ」 きっぱりと言い切るほむら。だがさやかは自嘲気味の冷たい笑みを浮かべる。 さやか「あたしが死ぬとしたら、それは魔女を殺せなくなったときだけだよ。それってつまり、用済みってことじゃん? なら、いいんだよ。魔女に勝てないあたしなんて、この世界にはいらないよ」 ほむら「...ツ」 さやかの頑固な自虐ぶりに、歯噛みするほむら。 ほむら「...ねえ、どうして?あなたを助けたいだけなの。どうして信じてくれないの?」 さやか「どうしてかなあ...ただなんとなく、分かつちゃうんだよね。あんたが嘘つきだってこと」 さやかは責めるでもなく穏やかに、ほむらを見据えて語る。 さやか「あんた、何もかも諦めた目をしてる。いつも空っぽの言葉を喋ってる。今だってそうさ。あたしのためとか言いながら、本当は全然別のこと考えてるでしょ?ごまかしきれるもんじゃないよ。そういうの」 ほむら「...」 俯くほむら。その表情がゆっくりと、本物の逆上に染まっていく。 ほむら「...そうやって、あなたはますますまどかを苦しめるのね?」 ほむらの言葉に、怪訝な顔になるさやか。 さやか「まどかは...関係ないでしょ」 ほむら「いいえ。何もかもあの子のためよ」 ほむら、溜まりに溜まった恨み節を滲ませながら、魔法少女に変身。 ほむら「あなたって、鋭いわ。...ええ、図星ょ。私はあなたを助けたいわけじゃない。あなたが破滅していく姿をまどかに見せたくないだけ...」 本気の殺意でさやかを見据え、詰め寄るほむら。 ほむら「ここで私を拒むなら、どうせあなたは死ぬしかない。これ以上、まどかを悲しませるくらいなら、いっそ私がこの手で、今すぐ殺してあげるわ。美樹さやか」 さやか「...ツ」 ほむらの剣幕に気圧され、咄嗟に身構えることもできないさやか。 だがその直後、駆けつけた杏子が背後からほむらを羽交い締めにする。珍しく何も食べていない杏子。 呆気に取られるさやかに向けて、叱陀する杏子。 杏子「何やってる!?さっさと逃げろ!」 さやか「...ツ」 やや逡巡するさやかだが、どのみち疲弊しきった自分にとって不利な展開なのは間違いない。何も言わずにその場を駆け去る。 後に残される杏子とほむら。杏子は怒気も露わにほむらを詰る。 杏子「正気かテメエは!?アイツを助けるんじゃなかったのかよ!」 ほむら「放して...ツ」 怒りに任せて暴れるほむらだが、体勢的に杏子が有利。 余裕を見せて不敵に笑う杏子。 杏子「フン...なるほどね。こんな風にとつつかまったままだと、あの妙な技も使えないわけか」 舌打ちし、抵抗を諦めるほむら。代わりに手榴弾を取り出して、ピンを抜く。さすがの杏子もこれには仰天。 杏子「なツーー!?」 すわ自爆する気か、と慌ててほむらから離れる杏子。その隙にほむらは瞬間移動。 手榴弾が爆発。安全圏に逃れて身を伏せていた杏子は事なきを得る。が、爆煙が消えた後にはほむらの姿はない。 杏子「...くそッ!」 怒りに任せて地面を殴る杏子。

Part B

口深夜の電車 真夜中の上り電車。帰宅客とは逆方向なので乗客はほぼ皆無。 疲れ切ったさやかが、ぐったりしながらシートに座っている。 同じ車両にはあと二人だけ客が。さやかとは離れた席で、二人組のホストらしき男が酔った勢いで騒いでいる。 ホストA「言い訳とかさせちゃ駄目っしょ。稼いできたぶんはきっちり全額貢がせないと。女ってバカだからさあ、ちょっと金持たせとくとすぐクツダラネェことに使っちまうからね」 ホストB「いやほんと、女は人間扱いしちゃ駄目っすね。犬か何かだと思って採けないとね。あいつもそれで喜んでるわけだし。顔殴るぞって脅せばまず大抵は黙りますもんね」 さやか「...」 ホストニ人の会話を、虚ろな眼差しで聞いているさやか。 ホストA 「ちょっと油断するとすぐ付け上がって籍入れたいとか言い出すからさあ、甘やかすの禁物よ? ったく、テメエみてえなキャバ嬢が10年後も同じ額稼げるのかつてえの。身の程弁えろってんだよ。ねえ」 ホストB 「捨てるときがさあ、ほんとウザイっすよね。そのへんショウさん上手いから羨ましいっすよ。俺も見習わないとーーん?」 ふとホストたちが気付くと、彼らの席の前にさやかが無言で佇んでいる。 暗く虚ろなその眼差しに、怪訝な顔をするホストたち。 さやか「ねえ、その人のこと聞かせてよ」 ホストA「はい?」 さやか「いまあんたたちが話してた女の人のこと、もっとよく聞かせてよ。本当の気持ちを教えてよ」 ホストB「...お嬢ちゃん中学生?夜遊びは良くないゾ」 さやか、相手の言葉を意に介さず、ぞっとするほど冷たく慮ろな目で続ける。 さやか「その人、あんたのことが大事で、喜ばせたくて、頑張ってたんでしょ?あんたにもそれが分かってたんでしょ?なのに犬と同じなの? ありがとうって言わないの? 役にぷたなきゃ給てちゃうの?」 ホストA「何コイツ、知り合い?」 ホストB「いや...」 途方に暮れるホストたち。一方で、さやかの口調はじわじわと押し殺した怒りに染まっていく。 さやか「ねえ、この世界って守る価値あるの? あたし何のために戦ってたの?教えてよ...今すぐにあんたが教えてよ...」 妖しく光るさやかの瞳。その不気味さに、わけも分からず竦み上がるホストたち。 さやか「でないとあたし...たぶん、どうにかなっちゃうよ?」 さやかの身体から溢れ出る邪悪な魔力。ソウルジエムが真っ黒に染まっていく。 空っぽの車両のまま、夜をひた走る電車。

口夜の公園 さやかを探して街中を歩き回ったまどか。 疲れ果て、公園のベンチで休憩している。 まどか「さやかちゃん...どこ...?」 ふと視線を感じて顔を上げるまどか。 やや離れた街灯の光の下で、キユウベえがこちらを覗っている。 キユウベえ「君も僕のことを恨んでいるのかな?」 まどか「あなたを恨んだら、さやかちゃんを元に戻してくれる?」 キユウベえ「無理だ。それは僕の力の及ぶことじゃない」 再び俯くまどか。 キユウべえは拒絶されていない雰囲気を察して、近寄ってきてベンチの隣に腰掛ける。 まどか「ねえ...いつか言ってた、わたしが凄い魔法少女になれるって話。あれは...本当なの?」 キユウベえ「凄い、なんでいうのは控えめな表現だ。君は途方もない魔法少女になるよ。おそらくこの世界で最強の」 まどか、やや躊躇してから、次の質問をぶつける。 まどか「わたしが引き受けてたら、さやかちゃんは魔法少女にならずに済んだのかな...」 キユウベえ「さやかは彼女の願いを遂げた。その点についてまどかは何の関係もない」 フォローするかのようにそう言った後で、キュゥべえは目を逸らし、続ける。 キユウべえ「でも、その後の頑張りについては...まどか一人でさやか10人ぶん以上の働きが出来ただろうね」 まどか「...」 結局のところ責任を感じてしまい、黙り込むまどか。 まどか「...どうして、わたしなんかが?」 キユウべえ「僕にも分からない。はっきり言って、君が秘めている潜在力は、理論的には有り得ない規模のものだ。...誰かに説明して欲しいのは僕だって一緒さ」 まどか「そうなの?」 キユウベえ「君が力を解放すれば、奇跡を起こすどころか、宇宙の法則をねじ曲げることだって可能だろう。なぜ君一人だけがそれほどのうを備えているのか...理由は未だに分からない」 まどか「わたしは...自分なんて、何の取り柄もない人間だと思ってた...」 内心の戸惑いを、訥々と口にするまどか。 まどか「ずっとこのまま、誰のためになることも、何の役に立つこともできずに、最後までただ何となく生きていくだけなのかなって...それは悔しいし、寂しいことだけど、でも仕方ないよねって、思ってたの」 キユウベえ「現実は随分と違ったね。ーーまどか、君は望むなら万能の神にだってなれるかもしれないよ」 まどか、重大な決断を前にしてやや怯えながら、最後の問いをキユウベえに投げる。 まどか「...わたしなら...キユウベえに出来ないことでも、わたしなら出来るのかな」 キユウべえ「というと?」 まどか「わたしがあなたと契約したら、さやかちゃんの身体を元に戻せる?」 キユウベえ「その程度、きっと造作もないだろうね」 にこやかに断言するキユウベえ。 キユウベえ「その願いは君にとって、魂を差し出すに起るものかい?」 まどか「さやかちゃんのためなら...いいよ。わたし、魔法少女にーー」 まどかが言い終わる直前に、キユウベえの身体は銃弾15発を同時に浴びて、原型のない肉塊に成り果てる。 恐怖に息を呑むまどか。 闇の中から歩み山る魔法少女スタイルのほむら。弾の切れた拳銃を投げ捨てる。(キユウベえを殺したのは時間停止攻撃です) 怒りと殺意の名残で荒い息を吐いているほむら。その剣幕に怯えるまどか。 まどか「ひ、ひどいよ...なにも殺さなくても...」 ほむら「あなたはーー」 いい加減、誰にも理解されない苛立ちに限界ギリギリのほむら。怒りと悔しさに涙さえ滲ませながら、まどかに詰め寄る。 ほむら「なんであなたは、いつだって、そうやって自分を犠牲にして...」 まどか「...え?」 ほむら「役に立たないとか、意味がないとか...勝手に自分を粗末にしないで! あなたを大切に思う人のことも考えて!?」 癇癪をおこしてまどかに掴みかかるほむら。だがまどかは何が何やら分からず途方に暮れる一方。 ほむら「いい加減にしてよ!あなたを失えば、それを悲しむ人がいるって、どうしてそれに気付かないの?あなたを守ろうとしてた人はどうなるの!?」 まどか「ほむらちゃん...」 事情は分からないものの、ほむらの糾弾の切実さだけ感じ取るまどか。 ふいに、一話冒頭で見た夢の内容が、朧気ながら脳裏に蘇る。 まどか「...わたしたちは、どこかで...」 ほむら「...ッ!」 まどか「どこかで、会ったことーーあるの? わたしと」 ほむら「それは...」 説明しようとして、言葉に詰まるほむら。 まどかの襟首を掴んでいた手を放し、その場に膝をつく。 そのまま肩を震わせて泣くほむら。 まどか、しばらく困惑してほむらを見守るものの、今はさやかを探す方が先決だと思い出す。 まどか「...ごめん。わたし、さやかちゃんを採さないと...」 ほむら「...待って...美樹さやかは、もう...」 まどか「ごめんね」 逃げるようにその場を去るまどか。ほむらは追おうにも涙に暮れて立ち上がる力がない。 ほむら「待ってッ、まどか!」 一人取り残され、泣き崩れるほむら。 その背後に現れる新たなキユウベえの彩。 キユウベえ「無駄なことだって知ってるくせに...懲りないんだなあ、君も」 憎しみの眼差しで振り向くほむら。平然と現れる五体満足の新キユウべえ。 キュゥベえ「代わりはいくらでもいるけど、無意味に潰されるのは困るんだよね。勿体ないじゃないか」 新キユウべえは旧キユウベえの死骸の上に屈み込むと、ガツガツと物凄い勢いで喰い貪りはじめる。 あっという間に跡形もなく消滅する旧キユウべえの死骸。新キユウベえ、満腹になってゲツブしながら、 キユウベえ「君に殺されたのはこれで二度目だけれど、おかげで攻撃の特性も見えてきた。時間操作の魔術だろう?さつきのは」 ほむら「...」 答えないほむら。それをキユウべえは肯定と受け取る。 キユウベえ「やっぱりね。何となく察しはついてたけれど...君はこの時間紬の人間じゃないね?」 図星を突かれるも、ほむらは怯むことなく言い返す。 ほむら「...お前の正体も、企みも、私はすべて知ってるわ」 キユウべえ「なるほどね。だからこんなにしつこく僕の邪魔をするわけだ。...そうまでして鹿目まどかの運命を変えたいのかい?」 ほむら「ええ。絶対にお前の思い通りにはさせない。キユウベえーー」 押し殺した戸で言いながら、怒りも露わにキユウベえを睨むほむら。 ほむら「ーーいいえ、インキュベーター」 真の名前で呼ばれて、ニヤリと邪悪に笑うキユウベえ。

口真夜中の駅 終電を過ぎて、明かりの消えたプラットフォーム。 誰もいないベンチに腰掛けているさやか。 そこにやって来る杏子。いつもの歩き食いはなし。さやかの姿を認め、安堵の溜息をつく。 杏子「...やっと見つけた」 さやか「...」 さやかの隣に腰掛けて、持参していたポテトチップスの袋を開け、食べ始める杏子。 杏子「あんたさ、いつまで強情張ってるわけ?」 さやか「...悪いね、手間かけさせちゃって」 意外すぎる素直さに、やや鼻白む杏子。 杏子「なんだよ、らしくないじゃんかよ」 さやか「つん、別にもう、どうでも良くなっちゃったからね」 どこまでも虚ろなさやかの目。それに気付いて、次第に不安を募らせる杏子。 さやか「結局あたしは、いったい何が大切で、何を守ろうとしてたのか...もう何もかも、わけ分かんなくなっちゃった...」 杏子「おい...」 膝の上で握りしめていた手を開くさやか。掌には彼女のソウルジエムが絞っている。真っ黒く染まり歪に変形したそれは、もはやグリーフシードと見分けがつかない。 杏子「...ッ!!」 さやか「希望と絶望のバランスは差し引きゼロだって...いつだったか、あんたが言ってたよね...今ならそれ、よく分かるよ」 さやかの手の中で、禍々しく脈動する漆黙のソウルジエム。まさにそれは孵化寸前のグリーフシードである。 さやか「確かにあたしは、何人か救いもしたけどさ。だけどそのぶん、心には恨みや妬みが溜まって、いちばん大切な友達さえ傷つけて...」 杏子「さやか、あんたまさかーー」 さやか「誰かの幸せを祈ったぶん、他の誰かを呪わずにはいられない...あたしたち魔法少女って、そういう仕組みだったんだね」 虚ろに濁ったさやかの瞳から、一滴の涙が流れ落ちる。 さやか「あたしって、ほんとバカ...」 ひび割れ、孵化するグリーフシード。現れ出る魔女の姿。 杏子、放出される魔力の奔流を浴びながら絶叫する。 杏子「さやかああツ!!」

口夜の街 深夜の町並みを見下ろすピルの上。さやかが魔女化した魔力の波動を感じ取り、駅の方角を眺めているキユウベぇ。 キユウベえ「この国では、成長途中の女のことを少女って呼ぷんだろう?」 キユウべえ、本性を露わにしたインキュベーターの笑顔で。 キユウべえ「だったら、やがて魔女になる君たちのことは魔法少女と呼ぶべきだよね」