The Beginning Story: Episode 9

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Part A

Midnight - Train Station

Midnight- Train Station 真夜中の駅
前回より続き。
漆黒のグリーフシードと化した自分のソウルジエムを眺めて、涙するさやか。
さやか「あたしって、ほんとパカ...」
ひび割れ、孵化するグリーフシード。現れ出る魔女の姿。
杏子、放出される魔力の奔流を浴びながら絶叫する。
杏子「さやかああツ!!」
カなく地に転がるさやかの身体。
一方、グリーフシードは放出する魔力によって結界を展開し、周囲の景色を侵食していく。
さやかの遺体を抱きかかえる杏子。その眼前で、いよいよ姿を現す魔女さやか。
杏子「くッ!」
杏子、変身。さやかの遺体を抱えたまま飛び退いて距離を取る。
魔女「キシヤアアア!!」
追いかけてくる魔女さやか。伸縮する触手で杏子を狙う。
杏子、危なげなく防御するものの、反撃に移れない。
杏子「何なんだよ...」
ソウルジエムから魔女が現れたというショックから、立ち直れない杏子。
容赦なく追い打ちを繰り出してくる魔女に対し、杏子は防戦一方に。
杏子「テメエいったい何なんだ!?さやかに何をしゃがったツ!?」
そこへ結界を外から突き破り、乱入してくる魔法少女スタイルのほむら。
ほむら「退がって!」
杏子「ツ!?」
ほむら、瞬間移動。同時に魔女の懐で謎の爆発。(時間停止攻繁)
苦悶し、怯む魔女。その隙にほむらは杏子に手を差し伸べる。
ほむら「掴まって」
杏子「何をーー」
ほむら「いいから!」
左腕にさやかの遺体を抱えたまま、右手でほむらに掴まる杏子。
ほむらの盾の砂時が遮断され、流れを止める。時間停止魔法が発動。
いきなり静止する周囲の景色に、唖然とする杏子。
杏子「こいつは...」
ほむら「私から手を放したら、あなたの時間も止まってしまう。気をつけて」
杏子の手を引いて走り出すほむら。
杏子「...どうなってるんだよ?あの魔女は何なんだよ!?」
ほむら「かつて美樹さやかだったモノよ。ーーあなた、見届けたんでしょう?」
杏子「...」
冷然と言い放つほむら。恨めしげに黙り込む杏子。
杏子「...逃げるのか?」
ほむら「厭ならその余計な荷物を捨てて、今すぐあの魔女を殺しましょう。できる?」
杏子「ふざけるなッ!」
怒鳴る杏子を、冷ややかに一瞥するほむら。
ほむら「今のあなたは、足手まといにしかならない。いったん退くしかないわ」
杏子「...ツ」
ほむらの先導で結界から脱する二人。外の空間(夜の駅ホーム)に戻る。
二人の背後で消滅していく結界の開口部。

Night - Street

Night - Street 夜の街
無人の街路。さやかの捜索に疲れ切り、悄然と俯いたまま歩いているまどか。
ふと顔を上げると、向こうから重い足取りでやって来る杏子とほむらの姿を見つける。杏子の両腕には、さやかの遺体が抱えられている。
まどか「さやかちゃん」
杏子「...ツ」
遅れてまどかの存在に気付く杏子。気まずい表情に。
駆け寄り、さやかの遺体にしがみつくまどか。
まどか「さやかちゃん! ど、つしたの? ねえッ、ソウルジエムは?さやかちゃんはどうしたのげ」
ほむら「彼女のソウルジェムはグリーフシードに変化した後、魔女を産んで消滅したわ」
凍りつくさやか。目を剥く杏子。
まどか「...嘘、だよね?」
ほむら「事実よ。それがソウルジエムの最後の秘密」
自らのソウルジエムを見せて、淡々と続けるほむら。
ほむら「この宝石が濁りきって黒く染まるとき、私たちはグリーフシードになり、魔女として生まれ変わる...それが魔法少女になった者の、逃れられない運命」
まどか「嘘よ...嘘よね?ねえ?」
助けを求めるように杏子に問うまどか。だが杏子も悔しそうに沈黙するしかない。
まどか「そんな...どうして?さやかちゃん、魔女から人を守りたいって、正義の味方になりたいって、そう思って魔法少女になったんだよ? なのに...」
ほむら「その祈りに見合うだけの呪いを、背負い込んだまでのこと。あの子は誰かを救ったぶんだけ、これからは誰かを崇りながら生きていく」
杏子、抱えていたさやかの遺体をまどかの腕に預けると、ほむらに迫り、襟首を掴み上げる。
杏子「テメエは...何様のつもりだ?事情通ですって自慢したいのか?」
ほむら「...」
静かに激怒する杏子に対し、あくまで冷淡に黙り込むほむら。
杏子「なんでそう得意げに喋ってられるんだ?こいつは、さやかの...」
親友だったんだぞ、と言いたくも、怒りのあまり言葉にできない杏子。
ほむらは杏子の方を見ょうともせず、あくまでまどかに向けてだけ語りかける。
ほむら「今度こそ理解できたわね?あなたが憧れていたものの正体がどういうものか」
まどか「...ッ、...ッ」
返事もできず、さやかを抱いて鳴咽するまどか。
ほむら、杏子の手を振り払い、冷たく告げる。
ほむら「わざわざ死体を持ってきた以上、扱いには気をつけて。迂闊な場所に置き去りにすると後々厄介なことになるわよ」
杏子「テメェ、それでも人間かげ」
ほむら「もちろん違うわ。あなたもね」
杏子「...ツ」
怒りに震える杏子と、泣き崩れるまどかを残し、立ち去っていくほむら。

Sayaka Room

Sayaka Room まどかの寝室
夜。眠れずにベッドの上で膝を抱えている、パジャマ姿のまどか。
窓の外に現れるキユウべえの影。念話で呼びかけてくる。
キユウベえ『ーー入っていいかい? 話があるんだ』
もはや何を信じていいのか解らなくなっているまどかは、前話で目の前で殺されたキユウベえが再登場したことにも無反応。
まどか「...生きてたのね」
カーテンがふわりと揺れて、室内にキユウベえが入ってくる。
まどか「ほむらちゃんが言ってたこと、本当なの?」
キユウべえ「訂正するほど間違ってはいないね」
まどか「...」
まどか、ついにキユウべえを諸悪の根源だと理解する。
だが努めて抑えた声で続ける。
まどか「じゃあ、あなたはみんなを魔女にするために、魔法少女に?」
キユウべえ「勘違いしないでほしいんだが、僕らはなにも人類に対して悪意を持っているわけじゃない。やむを得ない事情がこういう結果を招いてるんだ」
まどか「...事情って、何?」
キユウベえ「全ては、この宇宙の寿命を延ばすためなんだ。ーーまどか、君はエントロピーっていう言葉を知ってるかい?」
まどか「聞いたことはあるけど、詳しくは...」
キユウべえ「簡単にたとえると、焚き火で得られる熱エネルギーは、木を育てる労力と釣り合わない、ってことさ。エネルギーは形を変換するごとにロスが住じる。宇宙全体のエネルギーは目減りしていく一方なんだ」
キユウベえ、愛らしい小動物ではなく、狡猾な宇宙人としての本性を覗わせながら解説を続ける。
キユウベえ「だから僕たちは、熱力学の法則に縛られないエネルギーを探し求めてきた。そうして見つけたのが、魔法少女の魔力だよ」
まどか「あなたは、一体...」
キユウベえ「僕たちの文明は、知的生命体の感情をエネルギーに変換するテクノロジーを発明した。ところが生憎、当の僕らが感情というものを持ち合わせていなかった。そこでこの宇宙の様々な異種族を調査し、君たち人類を見出したんだ」
キユウベえ「人類の個体数と繁殖力を鑑みればーー一人の人間が生み出す感情エネルギーは、その個体が誕生し成長するまでに要したエネルギーを凌駕する。君たちの魂は、エントロピーを覆すエネルギー源たり得るんだよ」
キユウベえ「とりわけ最も効率がいいのは、第二次性徴期の少女の、希望と絶望の相転移だ。ソウルジエムになった君たちの魂は、燃え尽きてグリーフシードへと変わるその瞬間に、膨大なエネルギーを発生させる。それを回収するのが、僕たちインキュベーターの役割だ」
怒リのあまり、むしろ声から感情が抜け落ちてしまうまどか。
まどか「...わたしたち、消耗品なの? あなたたちのために死ねっていうの?」
キユウべえ「この宇宙にどれだけの文明がひしめき合い、一瞬ごとにどれほどのエネルギーを消耗しているか分かるかい? 君たち人類だって、いずれはこの星を離れて、僕たちの仲間入りをするだろう。そのときになって枯れ果てた宇宙を引き渡されても困るよね?長い目で見れば、これは君たちにとっても得になる取引のはずだよ」
まどか「馬鹿言わないで...」
ようやく怒りを面に出せるようになるまどか。
まどか「そんなわけの分からない理由で、マミさんが死んで、さやかちゃんがあんな目にあって...あんまりだよ。酷すぎるよ!」
キユウベえ「僕たちはあくまで君たちの合意を前提に行動しているんだよ。それだけでも充分に良心的なはずなんだが...」
まどか「みんな騙されてただけじゃない!」
キユウベえ、呆れたようにかぶりをふる。
キユウベえ「騙す、という行為自体、僕たちには理解できない。認識の相違から生じた判断ミスを後悔するとき、なぜか人間は他者を憎悪するんだよね」
まどか「...あなたの言ってること、ついていけない。ぜんぜん納得できない」
キユウベえ「君たち人類の価値基準こそ、僕らは理解に苦しむなあ。今現在で68億人、しかも4秒に10人ずつ増え続けている君たちが、どうして単一個体の生き死にでそこまで大騒ぎするんだい?」
まどか「そんな風に思ってるなら、やっぱりあなた、わたしたちの敵なんだね」
やや切なそうに歎息するキユウベえ。
キユゥベえ「これでも弁解に来たつもりだったんだよ。君たちの犠牲が、どれだけ素晴らしいものをもたらすか、理解してもらいたかったんだが...どうやら無理みたいだね」
まどか「...当たり前でしょ」
キユウベえ、入ってきたのと同じようにして窓から去ろうとしながら、最後に振リ向いて付け足す。
キュゥべえ「まどか。いつか君は最高の魔法少女になり、そして最悪の魔女になるだろう。そのとき僕らは、かつてないほど大量のエネルギーを手に入れるはずだ。ーーこの宇宙のために死んでくれる気になったら、いつでも声をかけて。待ってるからね」
返事を待つことなく出て行くキユウべえ。
後に残されたまどかは、膝を抱えたまま涙に暮れる。

Kyouko Base

Kyouko Base 杏子のねぐら
深夜。とある高級ホテルの一室。
ベッドに寝かせたさやかの遺体に、手を翳し、ゆっくり魔力を放射している杏子。
それを部屋の片隅の暗がリから、キユウベえが見守っている。
キユウベえ「そうまでして死体の鮮度を保って、一体どうするつもりだい?」
杏子「...」
杏子は答えず、ベッドから離れると、壁際の床に座り込む。傍らにはコンビニで買い込んだビニール袋一杯のジヤンクフード。
ベッドのさやかを見据えたまま、黙々と唐揚げやらブライドポテトやらを食べ始める杏子。豪勢な部屋に寝泊まりしているくせに、食はジヤンクでなければ落ち着かない彼女である。
杏子「...こいつのソウルジエムを取り戻す方法は?」
キユウベえ「僕の知る限りでは、ないね」
キユウベえの返事に、杏子は少しだけ食事の手を止め、鋭い視線を投げ返す。
杏子「そいつは、ォマエが知らないこともある、って意味か?」
キユウベえ「魔法少女は条理を覆す存在だ。君たちがどれほどの不条理を成し遂げたとしても、驚くには値しない」
杏子「...できるんだな?」
キユウベえ「前例はないね。だから僕にも方法は分からない。
生憎だが助言のしょうがないよ」
杏子「いらねーよ」
吐き捨てるように言ってから、何かに挑むように荒々しくジヤンクフードを食らい続ける杏子。
杏子「誰がテメエの手助けなんか借りるもんか...」

Morning - Road to School

Morning - Road to School 朝の通学路
元気なくしょげたまま歩くまどか。
その一方で隣を歩く仁美はいかにも幸せそう。
仁美「まどかさん、今朝は顔色が優れませんわ。大丈夫ですの?」
まどか「...うん。ちょっと、寝不足でね...」
仁美「それにしても、今日もさやかさんはお休みかしら」
まどか「...」
さすがに真実を語れず、口ごもるまどか。
仁美「あとでお見舞いに行くべきかしら...でも私が行っていいのか...今ちょっと、さやかさんとはお話ししづらいんですが...」
まどか「仁美ちゃん、あのね...」
言いかけたところで、まどかの脳裏に杏子からの念話が届く。
杏子『昨日の今日で、呑気に学校なんか行ってる場合かよ?』
まどか「...ツげ」
ぎょっとして空を振り仰ぐまどか。
やや離れた雑居ピルの屋上に、杏子の姿がある。
一方、まどかの不審な挙動を訪る仁美。
仁美「...まどかさん?」
杏子『ちょっと話があるんだ。顔貸してくれる?』
まどか「...」
まどか、やや躊躇するものの、決意して杏子の誘いに乗ることにする。
まどか「仁美ちゃん...ごめん、今日はわたしも学校お休みするね」
仁美「え? そんな、まどかさん、ちょっと...」
仁美の制止も聞かす、通学路から駆け去るまどか。

Part B

Mixed-Use Building - Back Alley

Mixed-Use Building - Back Alley 雑居ビルの裏路地
対面するまどかと杏子。
まどか「あの、話って...」
杏子「美樹さやか、助けたいと思わない?」
驚きに息を呑むまどか。
まどか「助けられる...の?」
杏子「助けられないとしたら、放っとくか?」
まどか「...」
返事に詰まるまどか。それを見て杏子も気まずそうに失笑する。
杏子「妙な訊き方しちゃったね。バカと思うかもしれないけど...あたしはね、本当に助けられないのかどうか、それを確かめるまで諦めたくない」
まどか「...」
杏子があくまで本気なのを知り、呆然となるまどか。まどかが予想していた杏子の人柄とは、あまりにも落差がある。
杏子「あいつは魔女になっちまったけど、でももしかしたら、友達の声ぐらいは憶えてるかもしれない。呼びかけたら、人間だった頃の記憶を取り戻すかもしれない。それができるとしたら...多分、あんただ」
まどか「上手くいくかな...」
杏子「わかんねーょ。そんなの」
ぶっきらぼうに応じてから、やや捨て鉢な笑みを浮かべる杏子。
杏子「わかんないからやるんだよ。もしかして、あの魔女を真つ二つにしてやったらさ、中からグリーフシードの代わりに、さやかのソウルジエムがポロッと落ちてくるとかさ...そういうもんじゃん。最後に愛と勇気が勝つストーリーつてのは」
まどか「...」
呆気に取られるまどかを前に、杏子はあくまで不敵に笑う。
杏子「あたしだって...考えてみたら、そういうのに憧れて魔法少女になったんだよね。すっかり忘れてたけど、さやかはそれを思い出させてくれた」
その独白で、まどかは杏子を信頼できると感じ取る。
一方で、真顔に戻って先を続ける杏子。
杏子「付き合いきれねえ、ってんなら無理強いはしない。けつこう危ない橋渡るわけだしね。あたしも、絶対何があっても守ってやる、なんて約束はできねーし」
まどか「ううん、手伝う。手伝わせてほしい」
握手を求めて、手を差し出すまどか。
まどか「あたし、鹿目まどか」
自己紹介、という発想がなかったせいで、杏子は一瞬きょとんとなり、それからさも可笑しそうに笑い出す。
杏子「ツたくもう、調子狂うなあ。ホント」
まどか「...え?」
杏子「佐倉杏子だ。よろしくね」
握手の代わりに、差し出されたまどかの手に「うまい榛」を乗せる杏子。
まどか「...?」
杏子の意思表示についていけず、途方に暮れるまどか。

Classroom in Session

Classroom in Session 授業中の教室
一時限目の数学の授業。担当教論が黒板に書いた設問を生徒に解かせている。
静かに授業を受けながら、ちらり、とまどかの席を窺い見る。空席で、遅刻して登校してくる様子もない。
歎息し、挙手して立ち上がるほむら。
ほむら「すみません、気分が優れませんので、保健室へ...」
数学教諭「んー、このクラスの保健委員は誰かね?」
女子生徒「鹿目さんは今日お休みでーす」
数学教諭「んん、では学級委員が連れ添いにーー」
教諭の指示などお構いなしに、一人で教室を出て行ってしまうほむら。唖然とそれを見送る教諭と生徒たち。

City Suburbs

City Suburbs 市街地郊外
夕方の町並みを、二人連れ立つて歩くまどかと杏子。
片手に持ったソウルジエムの反応を手がかりに、魔女の気配を探して廻りながら、もう一方の手では焼き鳥を食べている。
まどか「ほむらちゃんも、手伝ってくれないかな...」
杏子「あいつはダメだ。そういうタマじゃないよ」
まどか「友達じゃないの?」
杏子「違うね。...そうさなあ、まあ利害の一致っていうか...お互い一人じゃ倒せないヤツと戦うために、つるんでるだけさ」
まどか「...」
不思議そうなまどかの眼差しを受けて、さらに説明を続ける杏子。
杏子「あと何日かしたら、この街に『ワルプルギスの夜』が米る」
まどか「ワルプルギス...?」
杏子「あたしら魔法少女にとっては最悪の強敵、超弩級の大物魔女だ。あたしもアイツも、たぶん一人じゃ倒せない。だから共同戦線っていうか...まあ要するに、そういう仲なのさ」
杏子、ソウルジエムの反応を覗いながら、とある休工中の建設現場で足を止める。
杏子「...ここだな」
鎖の施錠を破り、中へと踏み込む二人。まだ鉄骨組みしかない建築現場。
まどか「本当に、さやかちゃんかな...他の魔女だったりしないかな?」
杏子「魔力のパターンが昨日と一緒だ。間違いなく、アイツだよ」
とある一画、あきらかに不穏な空気が澱んでいる場所で、立ち止まる杏子。
食べ終わった焼き鳥の山中を放り捨てて変身し、槍を構える。
杏子「さて、改めて訊くけど...本当に覚悟はいいんだね?」
まどか「なんかもう、慣れっこだし」
やや照れ笑いを見せつつ言ってから、しゅんと俯くまどか。
まどか「わたし、いつも後ろからついてくばっかりで、役に立ったこと一度もないけど...でも、お願い。連れて行って」
その様子に、失笑する杏子。
杏子「ほんと変なヤツだな。あんた」
杏子、槍を振り下ろし、結界の入口を引き裂く。
口を開ける異空間。その中へと踏み込んでいく二人。

Barrier - Inside

Barrier - Inside 結界の中
異界の迷路を、用心深く進むまどかと杏子。
まどか「ねえ、杏子ちゃん...」
杏子「あん?」
まどか「誰かにばっかり戦わせて、自分で何もしないわたしって...やっぱり、卑怯なのかな...」
杏子「あんたが何で魔法少女になるわけさ?」
まどか「何でって...」
問われて口ごもるまどかを、ぎろり、と睨む杏子。
杏子「舐めんなよ。この仕事はね、誰にだって務まるもんじゃない」
まどか「でも...」
杏子「毎日美味いモン喰って、幸せ家族に囲まれて、そんな何不自由ない暮らしをしてるヤツがさ、ただの気まぐれで魔法少女になろうとするんなら、そんなの、あたしが許さない。いの一番にぶつ潰してやるさ」
まどか「...」
杏子の荒々しい剣幕に、気圧されて黙り込むまどか。
だが杏子はやや口調を緩め、諭すように先を続ける。
杏子「命を危険に晒すつてのはな、そうするしか他に仕方ないヤツだけがやることさ。そうじゃないヤツが首を突っ込むのは、ただの遊びだ。おふざけだ」
まどか「そうなのかな...」
杏子「あんただっていつかは、否が応でも命懸けで戦わなきゃならない時がくるかもしれない。そのときになって考えればいいんだよ」
まどか「...うん」
領くまどか。結局のところ、まどかには何の引け目もないと諭すための説教だったのだと理解して、杏子の優しさを理解する。
まどか「杏子ちゃんは、どうして...」
言いかけたまどかを手で制し、足を止める杏子。
杏子「ーー気付かれた。来るぞ」
結界の奥から、二人の前に姿を現す魔女。
もはやさやかであった痕跡など微塵もない、無数の触手を伸ばす不気味な姿に成り果てている。
まどかがそのおぞましさに震え上がる一方で、杏子は冷静な戦士の眼差しで魔女を見据えている。
杏子「ーーいいな。打ち合わせ通りに」
まどか「つ、うん」
勇気を振り絞り、魔女の前に身を晒すまどか。
まどか「さやかちゃん、わたしだよ...まどかだよ!ねえ、聞こえる? わたしの声が分かる?」
魔女「グ...ガ...」
魔女、容赦なく触手を繰り出してまどかを襲おうとする。
身を竦めるまどか。だが寸前で杏子がその前に立ちはだかり、触手を槍で振り払う。
杏子「怯むな! 呼び続けろ」
まどか「...ッ...さやかちゃん、やめて...お願い、思い出して!こんなこと、さやかちやんだって嫌だった筈だよ!」
立て続けに繰り出される魔女の攻撃。そのすべてを槍で防御する杏子。
杏子の背後で、まどかは必死に呼びかけ続ける。
まどか「さやかちゃん、正義の味方になるんでしょ?マミさんみたいになりたかったんでしょ!?ねえ、お願い...もとのさやかちゃんに戻って!」
魔女「ガアアアッ、ガアアアアッ!」
激しさを増す魔女の攻撃。
このままでは埒があかないと判断した杏子、防御からカウンターを繰り出し反撃に移る。
杏子「...聞き分けがねえにも程があるぜ、さやか!」
魔女の触手を切り裂いていく杏子の槍。
だが背後にまどかを庇っているせいで、いつもの機敏な動きができない。
ついに触手の一本が、杏子の肩口を切り裂く。
杏子「ぐっッ!」
まどか「杏子ちゃん!?」
悲鳴を上げるまどかを、手で制する杏子。
杏子「大丈夫...この程度、へでもねえ...あんたは、呼びかけろ。呼び続けろ。さやかを...」
まどか「やめてッ、もうやめて!さやかちゃん、わたしたちに気付いて!」
魔女「ガアアアアッ!」
まどかの声も虚しく、激しさを増す魔女の攻撃。
ひたすら奮闘する杏子だが、脚に、腕に、次々と傷を負う。
激痛に耐えながら、不敵に笑う杏子。
杏子「はっ、いつぞやのお返しかい? そういえばあたしたち、最初は殺し合う仲だったつけねえ...」
次第に追い詰められ、動きを封じられていく杏子。
だがいくらダメージを負おうとも、その戦意は衰えない。
杏子「生温いって...あのとき、あたしがもっとぶちのめしても、あんたは立ち上がってきたじゃんかよォ...」
もはや防戦一方の杏子。そんな彼女を容赦なく打ちのめす魔女の触手。
だが杏子は悲鳴一つ上げず、穏やかに語リかける。
杏子「...怒ってんだろ? 何もかも許せないんだろ? 解るよ...だからさ、好きなだけ暴れなよ。付き合ってやるからさ。...それで、気が済んだら、目ェ覚ましなよ...な?」
だが横合いから杏子を迂回した触手の何本かは、後ろに控えるまどかへと迫る。
まどかの脚に絡みつき、捉える触手。恐怖に身を竦ませるまどかだが、勇気を振リ絞り、その場に踏み止まる。
まどか「...さやかちゃん、お願いだから...」
訴えかけるまどかの首にも触手が絡む。息を詰まらせ、声を出せなくなるまどか。
まどかの窮状に気付き、歯噛みして焦る杏子。
杏子「...さやかアツ!!」
杏子、渾身の力で触手を振り払い、魔女の本体へと攻撃を仕掛ける。
杏子「あんた...信じてるって言ってたじゃないか!カで人を幸せにできるって!」
杏子、捨て身の攻撃。魔女に大ダメージを与えるが、自らも腹に致命傷を負う。
無力感に悔し泣きしながらも、魔女に槍を突き玄てる杏子。
杏子「頼むよ、神様...こんな人生だったんだ...せめて一度ぐらい、幸せな夢を見させてよ...」
触手による首絞めで、既に意識を失っているまどか。
だがふいに彼女を提えていた触手が切り裂かれ、解放される。遅れて結界に踏み込んできたほむらの仕業である。
気絶したままのまどかを抱き上げ、杏子を助太刀しようとするほむら。
ほむら「杏子!」
杏子「...よぉ...」
血まみれの杏子の姿を見て、既に手遅れだと知るほむら。
ほむら「あなた...」
杏子「その子を、頼む...あたしのバカに、付き合わせちまった...」
杏子を助けに行かなければと、一瞬だけ躊躇するほむら。
だが杏子の方がそれを手で拒む。
杏子「足手まといを連れたまま戦わない主義だろ? いいんだよ。それが正解さ」
ほむら「...ツ」
杏子「ただひとつだけ守りたいモノを、最後まで守り通せばいい...ハハ、何だかなあ。あたしだって、今までずっとそうしてきたはずだったのに...」
ほむら「...」
杏子が死を覚悟していると知り、痛ましさに項垂れるほむら。
杏子「...行きな。こいつは、あたしが引き受ける」
沈鬱に頷いてから、まどかを抱えたまま走り去るほむら。
その背中を追おうとした魔女の触手を、杏子の槍が切り払う。
杏子「心配すんなよ、さやか...あんただけ置き去リにしゃしないって...」
最後の力を振り絞り、魔女と対峙する杏子。
魔女「キシャアアア...」
一気に杏子を捕食しようと、のしかかってくる魔女。
杏子は避けずに、魔女に捕らえられた上で、ソウルジエムを握リしめ、ありったけの魔力を解放する。
杏子のソウルジエムの輝きに、怯えたよう呻く魔女。
路次「ギギギギ...」
杏子「独りぼっちは、寂しいもんな...いいよ。一緒にいてやるよ。さやか...」
杏子、槍の穂を短く持ち直して、暴走する自らのソウルジエムに突き立てる。
壮絶な爆発。光に呑み込まれる杏子と魔女。
x x ×
結界の迷路を駆け抜けるほむら。
その周囲で、異界の景色がゆらぎ、もとの建築現場の光景に戻る。
ほむら「...」
立ち止まるほむら。
だが無事に通常空間に戻ってきたのは、まどかとほむらの二人だけ。
ほむら「杏子...」

Homura Apartment

Homura Apartment ほむらのアパート
独り、内十紙ムげの前で顕を抱えているほむら。
卓袱台の上には、詳細な書き込みゃ付箋が貼られたワルプルギス対策の作戦地図が拡げられたままになっている。
ほむら「...佐合杏子には、本当に美樹さやかを救える望みがあったの?」
独り言のように呼びかけるほむらに、部屋の片隅の闇に潜むキユウべえが応じる。
キユウベえ「まさか。そんなの不可能に決まってるじゃないか」
ほむら「なら、どうしてあの子を止めなかったの?」
キユウベえ「もちろん無駄な犠牲だったら止めただろうさ。でも今回、彼女の脱落には大きな意味があったからね」
キユウべえ、卓袱台の地図の上に飛び乗り、
キユウべえ「これでもう、ワルプルギスの夜に立ち向かえる魔法少女は君れだけしかいなくなった。もちろん一人では勝ち目なんてない。ーーこの街を守るためには、まどかが魔法少女になるしかないわけだ」
笑うキユウベえを前にして、ほむらは強い決意の眼差しで断言する。
ほむら「...やらせないわ。絶対に」