Kazumi Magica Extra: Dream-Colored Spoon: Difference between revisions

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友への祈りを胸に
友への祈りを胸に
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Revision as of 11:55, 16 October 2023

魔法少女かずみ☆マギカ番外編 ~ユメイロスプーン~

作平松正樹


足元で砕けた花瓶の破片が飛鳥ユウリの頬に当たった。彼女は表 情ひとつ変えず、花瓶を投げた相手――病院のベッドに伏せる親友、 杏里あいりを見据えている。余命三ヶ月と宣告されたあいりの手首 は、同じ中学生とは思えないほどに細く、枯れていた。 『終わったの、私の人生」と背中を震わせるあいりに、「終わってな んかない』とユウリは即答する。

「残された人生を精一杯生きろ、なんて言わないでね」

「それはあんた次第だよ」

初めて振り返ったあいりとユウリの目が合う。

「あんたが生きたいと思うなら、アタシはどんな手を使ってでもあん たを助ける。でも、あんたが生きることを捨てるっていうなら――」

「助けてユウリ」

ユウリの言葉を、あいりの涙声が遮った。

「私、死にたくない。もっと生きていたい。ユウリと一緒においしい ものたくさん食べたい」

ユウリは、その言葉が聞きたかったんだ、と心の中でつぶやくと、 首から下げていた『スプーンのペンダント』を外して、あいりにか けた。

スプーンは虹色にきらめいている。いいことがある前触れだった。 「夢色のお守り。アタシが戻るまで、持ってて」

どこへ行くのと問われたユウリは病室のベッドで振り返り、「ナイ ショ」――いたずらっぽく、ベーッと舌を見せた

廊下にでると、少し先の部屋から、暗い顔の医師とナースが出て きた。みゆきちゃんという小さな女の子の部屋。ドアの隙間からユ ウリと同じ年頃の姉のすすり泣きがこぼ

れてくる。昨日まで元気そ うだったのに……ユウリは信じられない思いと共に、あいりを一刻 も早く救わねばと、唇を噛んだ。


ユウリにとってのあいりが、かけがえのない親友になったのは、二 年前。文化祭の準備がきっかけだった。

クラスでカフェをやることになり、料理好きだったユウリが、メ ニュー担当となった。前の夜から寝ずに作った料理を、クラスで試 食していたとき、突然、一人の女生徒が

「気分が悪い」と言って、 皿を落とした。

ユウリの料理を食べて具合が悪くなったと訴える女生徒に呼応す るように、他の生徒たちの様子もおかしくなり、試食会は中止。自 分の料理をゴミバケツに全て捨てたユウ

リは、翌日から学校に行か なくなり、部屋に閉じこもった。


数日後。雨の日曜日、飛鳥家を訪れたのはあいりだった。 「帰って」と繰り返すユウリを無視して、あいりはユウリの部屋のド アにもたれかかって座り込んだ。

午後になり、雨が上がっても、あいりは座り続けていた。 夕日が、居眠りしていたあいりの頬を染め始めた頃。

「帰ったの?」という小さな声で、あいりは飛び起きた。すると、ド アが少しだけ開いて、ユウリの顔がのぞいていた。

「どうして……アタシのために……」

「だって」と言いかけたあいりのお腹が、グウゥーッと大きく鳴った。

「ははっ……お腹空いちゃった。朝から何も食べてないんだ。良かっ たら、何か作ってくれないかな?」

「本気なの?アタシの料理を食べて、みんなは……」

「違うよ。私、食べたもん。ユウリちゃんの料理。あなたが捨てたの も、全部食べちゃった」

「捨てたのを……食べた?」

「だって、美味しかったんだもん!みんなは騒いでたけど、傷んで なんかなかった。お腹も痛くならなかった。それに……最初に気分 が悪くなったあのコ、ウソついてたんだよ」

好きな男の子が、ユウリの料理を食べて喜んだのを見て、彼女は 食当たりのフリをした。あまりの演技に、クラスメイトたちは集団 ヒステリー状態になって、騒いでしまっ

たのだと、あいりは『事件 の真相』をユウリに告げた。

「そうだったんだ……良かった……でも、なんで、そこまで」

「こう見えても私、観察力あるんだよ。ユウリちゃん、料理配る前も、 家庭科の授業のときも、すごく丁寧に手を洗ってたよね。ツメの間 もしっかり。お料理のお皿も指紋

ひとつないくらいピカピカだった。 将来、コックさん目指してるって思った。そんな人が作る料理でお 腹が壊れるハズない」

「あんたって……」

「私、将来は探偵になりたいんだ。知ってる?『グルメ探偵ネコ・ ウルル』って?探偵には、料理人の友だちが不可欠なの。だから、 今回の事件は私にとって、大チャンス

だったの――ユウリちゃんと 友だちになるための」

あいりはいたずらっぽくベーッと舌を出し、肩をすくめた。

「さあ、晩ごはん、作って!」

きょとんとするユウリをあいりは部屋から引っ張り出した

子供の頃、憧れの料理人、スライス秋山の番組に出演してもらっ たスプーンのペンダントが、ユウリの胸元で輝いた。空にかかった 虹と同じ、七色のきらめきだった。

この瞬間、あいりはユウリの最高のともだちになった。


あいりとの思い出を胸に、ユウリは夜の街をさまよった。ユウリ には、ひとつだけ『アテ』があった。だが、それは本当に小さな希 望だった。

何日か前、病院の近くで妙な世界に迷い込み、その世界の主―― 魔女と呼ばれる化物に襲われたとき、一人の少女が風のように現れ、 嵐のように魔女を倒して救ってくれたのだ。

夢だったのかもしれない。でも、もし夢でなければ、彼女の魔法 ならあいりを救えるかもしれない。ユウリは魔法という奇跡に懸け た。そして――

「チャオ!また会ったね!」

大きな黒い帽子にマント姿の魔法少女は、ユウリを覚えていた。 けれど、ユウリの願いを聞いた彼女は、「わたしには病気を治す魔 法は使えないんだ」と答える。

力を落としたユウリに「でもね」と微笑みかけた魔法少女の足元に、 人の言葉を話す白いネコのような妖精が現れた。

「ユウリ、キミは親友の命を救うだけの力を秘めている」

「アタシに、そんな力が……?」

「うん。だから……ボクと契約して、魔法少女になってよ」 その夜、飛鳥ユウリは魔法少女となった。

友への祈りを胸に